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「じゃあ、後はよろしくお願いします」
「おう、任せとけっ」
にかりと気前よく笑う先輩とその周りの手を振ってくれている補佐の人たちに一礼して、検査室を後にした。
もうすぐケイリアとベローナの試合が始まるので、足早に観客席へ向かうと、そこは熱気で溢れかえっていた。
デュアル・マジックターゲットの結果いかんで、会場中が一喜一憂している。
選手が的を無力化した瞬間、歓声が上がり、鼓膜がびりびりと震えた。
思わず耳を抑える。
その声量と熱気で、前方に行くのを諦め、立ち見席となっている手すりに凭れかかり見学することにした。
「次は、レローネ学園1年生ペア!ケイリア・ベルナデット&ベローナ・パーシヴァル!」
アナウンスが会場中に響き、ケイリアとベローナが入場してくる。
光に反射して輝くピンクゴールドとスカイブルーの髪は、歩くたびにハーモニーを奏でるように靡いていた。
一際目立つ彼女たちを見つめながら、考えるのは、魔導具のことだ。
さっきまで魔導具の検査をしていたが、1年生の検査に入ってから、ベローナの時と同じような異音が鳴った魔導具が数個見つかった。
他の生徒から同様の報告はなく、もしかしたら見逃されている可能性もあるとリーダーが呟いていたが、異音がしただけで、発動状態に問題はないことから、注視するだけに留める方針となった。
今のところ、競技中に問題は起きていない。
だが、胸には確かな蟠りが燻っている。
大きな溜息と、開始の合図であるブザー音が鳴り響いたのは同時だった。
顔を上げてステージを見ると、宙に浮かぶ、魔法陣が下に刻まれている小型魔導具。
的だ。
15個、緩やかに移動しながら、彼女たちの前上方に出現した。
デュアル・マジックターゲットの勝敗を左右する決め手は、いかに早く、的に設定されている属性を観測できるかどうか。
観測の仕方はいろいろある。
一番無難な方法は、数打てば当たる戦法だが、得点は低くなるだろう。
ケイリアとベローナがどのような戦法で属性を当てるのか、期待で胸をいっぱいにしながら、2人の様子を焼き付けようと、目を凝らした。
一番最初に動いたのはケイリアだった。
「リフレクトフラッシュ」
綺麗な声が会場に響き、一つの閃光が的へと走った。
その閃光は小型魔導具の魔法陣にあたり、きらりと一際光って霧散する。
そしてベローナがすかさず魔法を放った。
「ウォータージェット」
一直線に伸びる水が、小型魔導具に当たると、それは無力化され落下していく。
得点パネルに有効である証の、緑のランプが点灯した。
「なるほど」
彼女たちの観察眼と正確な魔力操作に、感嘆する。
同じ要領で繰り返される、ケイリアとベローナの連携を眺めながら、一つ一つ注意深く観察していった。
本来、投影・反射を目的とした攻撃性の低い光属性下級「リフレクトフラッシュ」。
主に、姿をくらましたり、幻視させたりという役割を担うのだが、ケイリアはその投影の部分に着目し、魔法陣に当てることで、魔法陣に刻まれた属性情報を可視化させたのだ。
光属性が他の属性に反発せずに馴染む特性を生かした、かなり難易度の高い技術だった。
だが、可視化できるのは一瞬だけ。
それを見逃さず、捉え、把握し、魔法を選び取って、放つ。
ベローナの瞬時の判断力は天晴の一言だ。
リズミカルに的が無力化されていき、1分もたたないうちに15個すべての的が無力化された。
大歓声が巻き起こる。
ここまで洗練された試合はなかなかない。
あとはこの集中力がいつまで継続できるか。
ケイリアとベローナを見ると、少し疲れをみせるように汗を拭っている。
一瞬、胸の蟠りを思い出し、眉を寄せたが、真剣な二人の眼差しに、頑張れと心の中で応援した。
前半は、途中に二属性を当てなければならない特殊な的に少し戸惑っていたようだが、危なげなく全ての的を無力化し終えていた。
60秒のインターバル後、開始される。
少し荒くなっている息を整えながら、2人は後半に迎えうった。
「あっ」
的が増え、移動速度も速くなった的は、かなり魔法が当たりにくくなっている。
ケイリアの魔法が的に当たらず霧散して、ケイリアは動揺した。
そのせいか、ミスは続き、20個のうち5個を残して、的が一旦戻っていく。
「頑張って、ケイリアちゃん」
「はい」
短く2人が会話しているのを、口元を見て拾った。
その時、一瞬ケイリアと目が合う。
ケイリアが微笑んだ。
試合が再開されてすぐ、一つの小型魔導具の魔法陣が光った。
リフレクトフラッシュだ。
正確さが戻り、リズミカルに的が無力化されていく。
集中が戻った。
「すごいな」
思わず口から漏れる。
あそこから立て直せる人はなかなかいない。
そしてそれに難なく応えていくベローナの集中力は、恐ろしいほど突出している。
最後の的が無力化された瞬間、一拍の静寂の後、割れんばかりの大歓声が起こったのは言うまでもない。
びりびりと鼓膜を震わす大歓声を背に、選手の出入り口ゲートへと足を向ける。
2人に会えるのが楽しみだ。




