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開会式が終わり、競技の準備をするようにアナウンスが入る。
投影魔導具越しに舞台となるステージが仕上がっていく様を眺めて、ようやく大会が始まったのだと実感した。
検査室にも競技に参加する4年生が続々と集まり、魔導具の検査が始まっている。
「お願いします」
「はい」
受け取って、魔導具に刻印されている魔法陣をしっかりとなぞっていく。
魔力量規定抑制魔導具、デュアル・マジックターゲットに出場する選手に配布されるものだ。
用途は、魔力の使い過ぎ防止。
過去に1度だけ魔力枯渇による事故があったので、導入されたと聞いている。
魔導具自体に異常がないことを確認して、生徒に返す。
「一度、発動してみてください」
魔力が流され、問題なく発動されていることを確認して、控室へと移動してもらった。
「お疲れ様、手伝ってくれてありがとね、シリウス君」
リーダーを務める女生徒が穏やかに話しかけてくる。
今はデュアル・マジックターゲットに出場する4年生選手の検査時間で、4年生の補佐の手伝いをしていた。
「いえ、俺も1年生の時に少し変わってもらう予定なので、おあいこです」
デュアル・マジックターゲットには、ケイリアとベローナペアが出場する。
友である二人の活躍は、やはり見ておきたいので、交渉して今に至った。
律儀ねと笑って、リーダーは去っていく。
4年生のデュアル・マジックターゲットの試合が中継で流れ始めて、検査室の視線は全てそこに集中し始めた。
暫く、検査室は落ち着いていたが、その落ち着きは次のお客で破られる。
3年生だ。
流れで試合をしていくので、4年生が試合をしている最中に3年生の選手の魔導具を検査するのは当然だ。
ガヤガヤと騒がしくなり、手伝いとして魔導具の検査を続けていくと、魔導具を渡してきながら声をかけられた。
「君がシリウス君?」
顔を上げれば、見たことのない男の先輩だった。
不思議に思いながら返事をする。
「はい。そうですが」
すると、にやりと笑った。
なんだか見たことのある笑い方だ。
「初めまして、テオ・パーシヴァルだ。妹からたまに君の話を聞いて、興味があったんだ。今日は会えて嬉しいなあ」
「……ベローナのお兄さんですか?」
「そうだよ」
確かに、水色の髪に水色の瞳、顔の造形もよく見たら似ている。
「兄弟がいらっしゃるとは知りませんでした」
「結構、有名だけどね。君は平民だから仕方ないかもしれないなあ」
悪びれもなく困ったように笑ったその仕草は、人をからかう時のベローナにそっくりだった。
もしかしたら、今のベローナの性格には少なからず、この人の影響が出ているかもしれないと思った。
話もそこそこに、魔法陣をなぞり、故障個所がないか、確認する。
「眼帯、かっこいいね」
テオは作業中でも構わずに話しかけてきた。
魔導具から目を離さずに、返答していく。
「ありがとうございます」
「怪我?」
「はい」
魔導具を裏返して、破損箇所がないか確認しながら、応える。
「騎士見習いっていうのも本当?」
「はい」
「すごいね、その歳で」
「いえ」
「アウロニスが君に嫉妬していて面白いってベローナが良く話してくれてね。アウロニスよりも強いのかい?」
その質問には答えずに、確認し終えた魔導具を返した。
「一度、発動してみてください」
「質問には答えてほしいな」
テオからの笑顔の圧に、自然と目が細まる。
初対面で、かなり馴れ馴れしい。
ベローナはどうだったか、と考えながら、溜息を吐いた。
さっさと答えてしまった方が、早く切り上げられるかもしれない。
「何度か打ち合いましたが、まだ負けてません」
「ほお、すごいな。ぜひ、俺とも手合わせしてほしい」
「……早く発動してくれませんか」
面倒くさくなって、睨みつけてやると、テオは噴き出して大笑いし始めた。
「分かったよ、するする。ごめんね、イジメたみたいになって」
テオは目の端に涙を溜めながら、魔導具を発動してくれたので、魔力の流れを見る。
「問題ありません。控室へどうぞ」
事務的に言うと、テオは少し寂しそうに眉を下げた。
「もう少し話したかったんだけどな」
肩を竦めるその様子に、少しの罪悪感を感じて、口を開いてしまった。
「また、機会があれば」
「お!約束だぞ?」
「……」
ルンルンで出ていくその後ろ姿を眺めて、口を開いたのは間違いだったのではないかと、やりきれない思いに軽く後悔した。




