70
「……点検終わりました」
「ありがとう~みんな!開会式まで休憩しようか!」
リーダーが声をかける。
試合前の点検が全て終了したことの合図だった。
魔導具は数が多く、魔導装置は精密さが要求される。
そのため丁寧に何重にもチェックをし、気づけば開会式直前まで作業していた。
しかし、魔導具に関しては配布後、試合前にもう一度チェックする必要がある。
身に着けた状態で誤作動を起こしたら、人命にかかわるためだが、このあとも作業が続くと思うと気が重い。
この役割は仕事量の割に責任も伴うので、かなり不人気であることを、作業中に聞いてしまって後悔している。
もし、次があるならば断わろう。
そう決意した。
近くにあった椅子に腰かけ、水分補給を行う。
他の生徒は、やり切ったと晴々としている。
周囲との疲労度の差にさすがに恨みがましく思った。
代表選手も続々と集まり、作戦会議やら、体調確認などを行っている。
眺めているとその中から一人抜け出して、こちらに歩いてくる人影を見た。
「お疲れ。かなり疲れてそうだが、大丈夫か?」
ウォルターだった。
顔を上げるのも億劫だったが、何とか持ち上げて、ウォルターの顔を見る。
「うん……疲れた」
「だいぶだな」
苦笑して隣に座ってくる。
沈黙もほどほどにウォルターが口を開く。
「ガーディアン・ブレイク、出場するんだ」
「知ってる」
「レイフと一緒にやるよ」
「うん」
一拍置いて、ウォルターがこちらを見た。
「観ていてくれるよな?」
期待の眼差しに、微笑む。
「……分かった」
返事を聞くと嬉しそうに笑った。
「ありがとう!評価、頼むよ」
開会式があるからと、ウォルターは代表選手の輪の中に戻っていった。
開会式は、代表選手のみが並ぶ決まりとなっているので、補佐は裏で準備を継続していて構わないし、休憩していてもいい。
暫くは動けそうにないなと背もたれに身を預けて、目を瞑った。
「おい、寝てんのか?」
その声に目を開ければ、アウロニスの顔が視界に入ってきた。
「何?」
そのままの状態で返事をすれば、怪訝そうな顔をする。
「疲れてんな」
「……重労働したあとだよ」
「ふーん」
興味もなさそうに隣に腰掛けてくる。
自然な様子に煩わしさは感じない。
「開会式は?」
「出るよ。ちょっとした暇つぶしだ」
自然に息が漏れる。
「アウロニスは今日、何も出ないんだっけ?」
二日目に行われる、フラッグ・ドミニオンにだけ参加する予定だったはず。
確認すると、軽く返された。
「だから、開会式終わったら、暇だな」
疲れている人間の隣でいうセリフとしては、かなり煽ってきているとしか思えない。
「補佐、手伝えば?」
「はあ?俺はそんなガラじゃねえ。そんなことする暇あったら、寝る」
その発言には流石に苛立ちを感じて、投げ出されている脛を思いっきり蹴った。
「いっ!」
「もう開会式始まるから、行ったら」
睨みつければアウロニスは顔を歪めて立ち上がる。
「上等だ、こら!開会式終わったら、覚えてろよ?」
凄んで去っていった。
こういうときはさっさと逃げるに限る。
試合前の検査室へと、疲労度の高い身体を叱咤して歩き始めた。
『これより、第52回 三校連合戦術競技会を、始めます!』
大きな歓声が大闘技場を揺らす。
それと同時に小さな悪意が舞台の裏側で、燃え広がっていった。




