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明日に向けての準備は滞りなく進んでいく。
大きな問題が起きることはなく、夕食の時間となった。
立食パーティーだ。
大ホールを貸し切って1年生から4年生の代表選手と補佐役が集まっていた。
貴族が主催の格式が高いものではないので、皆がリラックスして食事をしている。
レイフたちも喋りながら食事をしているのを、壁に寄りかかりながら眺めていた。
先ほどまで補佐役として、料理を並べたり、皆にグラスを配ったりしていたが、少し疲れたので休憩をしている最中だった。
グラスに入った水を口に含む。
ホッと一息ついて食事を取りに動いた。
「じゃあ、明日はその作戦で行きましょ」
「分かりました。お互い尽力しましょうね」
ケイリアとベローナが食事をしながら、明日の作戦会議をしている。
2人が出るのは、デュアル・マジックターゲットと呼ばれる、魔法で的を無力化する競技だ。
片方が的を当てやすいように調整し、片方が的を無力化するという連携が必要なもので、2人の呼吸がかみ合うかどうかが勝負になるだろう。
「シリウスさん」
横を通り過ぎようとして、ケイリアに呼び止められた。
「先ほどはお疲れさまでした」
「いや、仕事だから」
「それでも、お礼は必要です」
にっこりとした笑顔の圧には逆らえず、ありがとうとだけ応える。
「はい」
にこやかに笑うケイリアを横目に、料理を選び取っていると、近づいてくるもう1人。
「ケイリアちゃんも積極的になってきたわよね~」
意地の悪い笑みを浮かべているベローナだ。
目を細めて、こちらに耳打ちをしてくる。
「婚約者いるからね~」
「知ってる」
「どうだか」
何だこいつはと、じと目を向けてその場を離れた。
あらら~という声は、聞こえないフリをして、比較的目立たない場所で食事を開始する。
周囲から聞こえてくる声は、明日の大会についてばかりだった。
考え事もせずに食べていれば、影が差す。
「お前は本当、端っこが好きだな」
眉を寄せているアウロニスだった。
それに肩を竦めて口を開く。
「ちょっと疲れた」
「出場するわけでもねーのに、よく言うよ」
「いろいろあるんだ」
気を抜くと首に重さを感じる。
違和感は拭えないままだ。
目を伏せていれば、食事を覗き込んでくるアウロニスの頭が視界に入ってきた。
「あ、何だそれ、ステーキか」
「うん、あっちの方にあったよ」
「取りに行ってくる」
さっさと歩いて行ってしまった。
何だかんだ声はかけてくるくせに、深くは踏み込んでこない。
アウロニスらしくて、苦笑した。
食事も終えて、夜風に当たりたくて外に出てみる。
涼しくなってきた空気は、肌を撫でるように流れていき、暑さの名残を示すように庭園に咲く赤いダリアが、風に揺れていた。
ダリアを撫でるようにゆっくりと流れていく風に乗って歩いていると、視界に人が映る。
風に靡いて、輝く銀髪が夜の空に散りばめられていた。
幻想的な光景に思わず、目が釘付けになる。
綺麗だ。
じっとその様子を眺めていると、こちらに気づいたようで、深淵のような漆黒の瞳と目が合った。
夜の空気に、静寂が漂う。
「……あの、ココがどこだかわかりますか?」
「は?」
思わず、素っ頓狂な声を出してしまったのは、しょうがないだろう。
雰囲気とはかけ離れた言葉に目が点になる。
同じくらいの背丈で整った顔立ちの男は、困り眉を披露していた。
「困りました。道に迷ってしまったんです」
「……」
どうしてこんなところでという気持ちが強いが、その言葉は飲み込んで男を観察してみる。
制服が違う。
装飾が凝った豪奢な印象の制服だ。
他校の生徒だろうか。
この宿泊施設は、レローネ学園のみの貸し切りだから、ここに他校の生徒が居るのは明らかにおかしい。
「もしかしてラナカル魔法専門校の人?」
見た目や服装で判断し聞けば、その男はこくりと頷いた。
「すいません、ここはもしかしてレローネの方たちの宿泊先でしたか?」
近づいてくるが、困り眉はそのままだった。
「うん。……相当な方向音痴だね」
怪訝に眉を寄せれば、男は苦笑いを浮かべて、はい、と短く返事をした。
「いつの間にかこんなところに居ました」
「いつの間にかって……」
他校の偵察だとか、妨害だとかの可能性を考えたが、雰囲気では本当に困っているように感じる。
溜息を吐いた。
「道案内すればいい?」
男は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「はい、お願いします」
一礼して、手を差し出してくる。
「僕は、ナイジェル・ヴィンセントです」
「……シリウスだ」
その手を握り返した。




