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夕日が影を濃くする時間、図書棟は閑散としている。


先ほど、補佐役の応募用紙を提出したところ、教師は嬉しそうにしていた。


後日、ポジショニング決めの会議があるらしい。


ドレイクにも参加する旨を伝えなくてはいけない。


やることは山積みだなと、溜息を吐いた。


今は手隙のため研究を推し進めようと、魔力質に関する文献を求めて図書棟に来ている。


本棚を眺めて、目的の文献を探すも、どれも覚えのあるタイトルしか並んでいない。


「だいぶ読みつくしたか」


他の場所も探そうと踵を返したところで、人が居ることに気が付く。


机で大量の紙と本を広げて、何やら悩んでいる様子のライラだった。


よく見ると、広げられた本のページには見覚えがあった。


『魔法陣と式』だ。


本のページを捲っては戻ってを繰り返し、ペンは紙に書いてはバツ、書いてはバツを繰り返している。


その真剣な様子に声をかけようか悩む。


あれほど真剣にやっているのならば、邪魔しない方がいいかもしれないと思ったが、ふと違和感を持った。


何故、彼女が魔法陣について調べているのか。


確か、ライラは魔法科・魔法薬学・魔法工学を専攻にしているはずだ。


知識として入れておく分には不自然ではないが、彼女が今文献として使用しているのは、かなり高度な部類の魔法陣関連の本だ。


以前、研究用として使用していたが、魔法陣の根幹についての思想に偏った内容なので、直接的に何か役に立つようなものではなかったはず。


どうして、そんな本とにらめっこしながら、必死になっているのか、デインの友人である彼女に対して、少し興味が湧いた。


そっと近づいていく。


近くなると紙に書いてある内容も少しずつ見えてきた。


「……結界魔法の式か?」


ぼそりと呟いた声に、ライラが肩を撥ねさせて振り向いてきた。


「シリウスさん!?」


驚かせてしまったことに罪悪感を感じながら、更に近づく。


「ごめん、驚かせた」


「……いえ」


目を伏せたライラは、ハッと何かに気づいたようで、急いで本を閉じ紙を胸に抱く。


「……見ました?」


硬い声でちらりと覗いてくる瞳に、目を細めて頷く。


「結界魔法陣の式が書かれてた」


ライラは気まずそうに目を逸らした。


見られたくないものだったのだろうか。


「あ、新しい結界魔法が作れないかと、思いまして……」


そっぽを向いたまま強めの口調で説明してくる。


なんだか、イジメているように感じて、頭を掻いた。


「良いんじゃない?別に。何なら手伝うけど」


「……良いんですか?」


上目で恐る恐ると聞いてくる。


頷くと、お願いしますと頭を下げられた。


「わかった。ちょっと待ってて」


言い残して本棚を漁りに行く。


魔法陣を構築するのに必要な文献をいくつか引っ張ってきた。


本を机に置き、ライラの向かいの席に座る。


「……これは?」


「参考になりそうな本。構築するなら、読んでおいて損はない」


「……全部覚えていらっしゃるんですか?」


「まあ、一通りは」


ライラは目を見開く。


その瞳の感情は、感心というより恐怖が見えた。


彼女の顔を見たくなくて、目を伏せる。


「どこで躓いてるの?」


話題を切り出せば、慌ててライラは紙を見せてきた。


「次の式で、ぴったり合うものが良く分からなくて、困っています」


途中まで記されている魔法陣に目を通す。


魔法陣の構成は、いくつかの式に分けられて構成されている。


初級なら2式、中級なら4式と、強くなれば、式の数が増える。


ライラが渡してきた式の数は2式で、それを組み合わせても魔法陣の5分の1程度にしかならない。


「上級の結界魔法?使えるの?」


問えば、ライラは目を泳がせて口ごもった。


不自然な様子に眉が寄る。


「……趣味です。実用は……考えていません」


「……そう」


ライラにも事情があるんだろう。


深くは聞かないことにした。


もう一度、紙に描かれた式を確認する。


よく見る結界魔法の基本式だ。


この次に来る式から、バリエーションが変わってくる。


形状・強度・規模など。


参考になりそうな本を開く。


該当のページを開いてライラに見せた。


指をさす。


「今はこの部分まで式が完成してる。ここから個人の裁量になってくるから、たぶん躓いたんだと思う」


「……この本分かりやすいです」


「これが、一番初心者向き」


ライラはじっと本を見ている。


内容を把握しようとしているのかもしれない。


構わず続けた。


「基本だと、次は形状を決める式を組み込むのがベストだと思うけど」


「……なるほど。私は法則を先に決めようとしていました。だから合わなかったんですね」


「それは最後の方」


「分かりました」


ライラは今度こそ迷いなく、新しい紙に式を書いていく。


「分からなかったら声かけて」


「はい」


さっき、参考文献と一緒に引っ張ってきた小説を開いた。


カリカリとペンを走らせる音が鼓膜を揺さぶる。


そこから一度も声をかけられることはなく、窓の外から光がなくなるまでライラの手は止まらなかった。



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