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騎士団の廊下は、窓が多く、暑さが残りやすい。
残暑が身体を包む中、騎士団長室へと向かう足取りは重い。
学園が始まり、久々の授業に疲労感が身体全体にきていた。
扉をノックすると、返事があり、扉を開けた。
「お疲れ、シリウス」
「お疲れ様です」
ドレイクを見ると、少し疲れているようだった。
机の上は綺麗に整頓されている。
書類整理が終了したばかりなのだろうか。
「まずは、正式にシリウスの後見人として、国王の認可が下りた。まあ特にやることは変わらないが、何かあったら頼ってくれ」
「分かりました」
即座に返答すると、ドレイクは申し訳なさそうな顔で続けた。
「……両親にもサインもらってきてくれてありがとな」
「いえ……」
目を伏せて、思い出すのは、アイリスの笑顔だ。
「行って、良かったと思います」
「そうか」
安心した顔を見せるドレイク。
しかし次の瞬間には、険しい顔になる。
「それはそれとして、シリウス。お前ちょっとやりすぎじゃないのか?」
「……やりすぎとは?」
思い当たる節がなくて、眉を寄せれば、ドレイクは片手いっぱいに封筒を持ってゆさゆさと動かした。
「これ、全部、お前宛の招待状」
「……は?」
軽く数えても20通はある。
頬が引きつる。
「ちなみにこれは騎士団に届いていたものだけだ」
「……まだあるんですか」
「屋敷の方にはこれの倍は届いている」
「……」
言葉を失う。
やりすぎた?
どこが?
レイフの親をひっかけようとした時か?
「騎士見習いで、レローネ学園で成績は優秀、極めつけは俺が後見人だと言い広め、あのタヌキ爺とランスロット侯爵閣下の2人と、ある程度の親交があると、パーティーで広めたのが効いたな」
冷や汗が流れる。
あまりその後のことを考えていなかったのは認める。
全部、ドレイクに任せとけば上手くいくだろうと勝手に解釈していた節はある。
「さらにだな……タヌキ爺とランスロット侯爵閣下から個別に連絡があってな、2人と話したが……何だったか、キャンセラーと、弾性質?がどうとかなんとか言っててな。お前のことを危険だとか言っていたぞ。俺の手には余るから、協力させろとか言ってきたが……」
細まったドレイクの瞳がきらりと光った。
「どういうことか説明してくれるか」
「……はい」
実際、帰ってきたときに説明をしたのは、オルフェウス家のことと、軽く試合をしたことしか言っていなかった。
ここまで大事になるとは思わなかったのだ。
ドレイクに細かく説明していく。
「レイフという友人のことを焚きつけるために、自分の身を大っぴらにし、パーティーで大暴れ。更に、キャンセラーという技術をウォルターの決闘で使い、今回の5対1の試合で研究中の技を試験運用したら、タヌキ爺とランスロット侯爵閣下に目をつけられた。そういうことだな?」
「……はい」
罪悪感で頭が上がらない。
確かにやりすぎたかもしれない。
ドレイクが大きく溜息を吐く。
「たく……世界を広めてこいとは言ったが、広げすぎだ。今はなアラリック国王陛下とどこまでお前の存在を公にするか、協議中だ。ここまで来たら隠しておくのは無理だからな……最悪、学園は無理かもしれん」
学園という言葉に顔が撥ねる。
一気に半年の記憶が蘇る。
アウロニス、ウォルター、デイン、レイフ、ケイリア、サイラスにベローナ。
彼らとの日々がなくなることを想像した。
胸に刃を突き付けられたかのように痛い。
俯いて、歯を食いしばった。
これも俺が選んだ結果だ。
「学園生活は、楽しかったか?」
「……はい」
沈黙が下りて、ドレイクの足音が近づいてくる。
頭に手を乗せられた。
「悪いようにはしない。お前がまだそこに居られるように尽力してやる」
いろんな感情が渦巻いて、顔は上げられなかった。
「ありがとう、ございます」
ドレイクの笑い声が頭上から聞こえる。
「お前がしおらしいのも珍しいな」
「迷惑かけるから」
ぼそりと呟くと、手で髪をかき回される。
「ちょっ……」
「お前はまだ子供だからな、こういうのは大人に任せな」
ちらりと上を覗くと、ドレイクが微笑んでいた。
ふわふわとした感覚が胸を覆いつくす。
気恥ずかしくなって、視線を逸らした。
「そういえば、大会に関しては、お前、出場禁止な」
「は?」
間抜けな声が空気に溶け込んでいった。




