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レイフ視点です。
シリウスを見かけたのは、昼食前の廊下でのことだった。
太陽の光が窓から差し込み、温かくなっている廊下を、いつもより一際憂いを帯びた様子で歩いていた。
蒼い瞳が光に当たってキラキラとサファイヤのように輝いている。
黒の眼帯は暑そうだなんて思った。
じっと見ていると、シリウスがこちらに気づいて、微笑む。
「お疲れ」
目を細めて笑うその姿は、確かにアヴェリン姉さんが惚れてしまうのも頷けるだろう容姿だ。
「うん、シリウスこそ、お疲れ。どうだったの?ランスロット閣下は」
その一言で顔がムスッとなるのだから、相当嫌だったのかもしれない。
「まあね。適当にあしらって、あとはドレイクに全振りしといた」
肩を竦めて、目を伏せている。
少し自嘲気味なのは、自分の失態を嘆いてか、あるいはランスロットに対して多少でも悪いと思ってか。
「……もしかして気をつけなさいみたいなこと言われたの?」
ぽつり、考えていたことを聞くと、シリウスは目を瞬かせて驚く。
「……うん。あまり大っぴらにするなって言われた。……良い大人だ」
目を細めて、窓に視線を向けているシリウスの顔を見ながら思い出すのは、数日前の市井のこと。
あの時の語っていたシリウスの顔と同じだった。
拳を握る。
いろんな顔を見せてくれるようになった。
どんなことがあっても立ち続ける強い背中に憧れた。
たまに弱音を吐く背中を支えていきたいと思った。
後ろを振り返らないその手をずっと掴んでいたいと思った。
なのに、昨日のパーティーで醜いところを見せて後悔している。
―――俺はもう行く。
この言葉が今でも胸にこびりついて離れない。
焦燥。
置いて行かれる。
ただでさえ離れている距離が、更に開いてしまう。
そう思ったら、何が何でも立ち向かわなきゃって思った。
ドリアン兄さんと、ダンカン兄さん、そして父上。
怖かった。
でも同時に、こんな単純なことだったんだと思った。
ドリアン兄さんには改めて謝ってもらった。
ダンカン兄さんから謝罪はなかったけど、首に充てる氷嚢をもらった。
アヴェリン姉さんには、心配と笑顔をもらった。
デイモン兄さんには、賛辞と期待をもらった。
父上からは、謝罪と、今後の評価の仕方について話し合うという時間をもらった。
一歩踏み出すだけでこんなにも違った景色が見れるんだと、心が晴れる気持ちだった。
ねえ、シリウス。
本当に君はすごい人だよ。
1つの家族を根っこから変えてしまったんだから。
だから今度は俺の番だ。
シリウスに近づいて、手を握る。
きょとんと見返してくるその顔に笑顔を送った。
「ご飯、食べに行こう!」
「……またあの空気で食べるの?」
「ははっ、どこに行ってもシリウスは注目されるね」
「それは良くないことだろ?」
「そう?どこ行っても見つけやすくて、俺は嬉しいよ」
同じ歩幅で、同じ速度で、食堂まで並んで歩いた。




