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無言で、ジャケットを脱ぎ、控えめにつけていた装飾を外す。
「本当に、魔法を使用して良いのか?」
「……じゃないと、俺が不利ですよ」
「そうか?」
上ずった声を上げるヴァレリアンに、じっとりとした視線を送る。
本当に純粋な剣術だけで、5対1が成立すると思っているなら、過大評価しすぎだ。
適当な木刀を抜き取り、軽く振るう。
いつもより重く感じるのは、気分のせいか。
「シリウス様、楽しみにしていますわね」
アヴェリンが限界まで目を細め口元を隠して、華奢な声をかけてくる。
そもそもこの女のせいなのだ。
ひと睨みして、踵を返す。
「あら、嫌われてしまいましたか」
「きっと照れ隠しだ、アヴェリン」
わざと聞こえるように言ってくる2人に、苛立ちが湧く。
もう二度とこの2人とは関わらない。
既に準備を終えている5人に相対する。
大きく溜息を吐いた。
「……本当にやるの?」
「往生際が悪いな、シリウス。決まったことだろ」
木刀の先を向けてくるアウロニス。
ドリアンとダンカンは緊張しているようで、木刀を握る手が震えている。
「私もそれなりに修練してきた。今どれだけ君に通用するのか確認したい。よろしく頼む」
ウォルターが木刀を構えて、真摯に目を向けてくる。
レイフがへらりと笑った。
「俺、シリウスとやるの初めてだ、頑張るよ」
その言葉で苛立ちが、ほんの少し消えるのだから、罪な男だ。
木刀を握る手に力を籠める。
「……分かったよ」
5対1は久々だった。
特にアウロニスという特異点が居る。
こちらも本気を出さなければ、劣勢になってしまうだろう。
審判役のランスロットが、声を出す。
「引き続き木刀での試合で、今回魔法の使用は許可する。ただし、殺傷能力が高い魔法は使わないこと。どちらかが降参、あるいは戦闘不能になった時点で終了とする」
配置はアウロニスが先頭、その右と左にウォルターとレイフ、後方にドリアンとダンカンという楕円を描くように組まれている。
ウォルターが居るから、きっと意図してのことだろう。
身体の力を抜く。
ゆっくりと深呼吸をした。
「準備は良いか」
無言で全員が頷いた。
「はじめ!」
フォン、と開始の合図とほぼ同時に、魔法陣の軌道音を5人の中心で鳴らした。
「避けろ!」
数日前に経験したアウロニスは警戒していたのか、声を張り上げる。
前3人は反応できたが、後ろの2人は反応が遅れた。
「うわっ!」
「あつっ!」
火花が散り、2人を襲う。
それに集中している隙に、木刀を投げた。
「いっ!」
ドリアンの腕に当たり木刀を取り落とす。
「くそっあいつ姑息すぎだろ!」
「……5対1だからしょうがないだろ」
耳元で言ってやれば、アウロニスは気づいていなかったのか、驚愕な顔をしている。
その横腹に膝蹴りをお見舞いし、飛ばす。
勢いを殺さず、そのままドリアンに肉薄し、彼の使っていた木刀を足で上に飛ばした。
「はやっ」
言い終わる前に、木刀をキャッチして両手で思いっきり横から薙ぎ払った。
ドンと壁にあたり、目を回している。
後で謝ろう。
まずは一人。
「よくもドリアン兄さんをっ!」
そう言ってダンカンが上段から振り下ろしてくる。
後ろに回避すると今度は、その後ろからレイフが近づいてきた。
「ふっ!」
両手で横から薙いでくる木刀を、振り返らずに跳躍して回避。
そのままレイフの肩に足をついて、更に跳躍した。
バランスを崩すレイフを確認して、ウォルターに向き直る。
魔法陣が完成していた。
「エアーシュート!」
風属性も詠唱破棄ができるのか。
感心して、空中で同じ魔法を生成し、相殺した。
「なっ!風も無詠唱か!」
着地し、驚いているウォルターに突貫する。
反応が遅れて、下からくる攻撃に木刀を入れたものの、バランスを崩していた。
もう一合、お見舞いしようとした矢先に、アウロニスの気配がして、咄嗟に後ろに下がった。
「くそっ、背中に目でもついてんのか」
「落ち着こう、確実に」
2人が横並びで構える。
その二人に集中したいが、後ろからくる攻撃にも対応しなくては。
溜息を吐いて、跳躍後一回転してダンカンの後ろに立った。
ドリアンと同じように横から薙いで、壁へと投げ飛ばす。
ギデオンが咄嗟に支えていたが、お腹に入った一撃が重すぎて立ち上がれていない。
これで、二人目。
レイフが低く身を屈めて下から攻撃を仕掛けてくる。
スピードはまだまだだが、木刀を振るうスピードはやはり突出している。
その軌道を捉えながら、木刀を滑りこませ、鍔のあたりで木刀を捻った。
「あ……っ」
木刀を持っていられなくなり取り落としたレイフの木刀を足で蹴り上げる。
思いっきりレイフの顎に当たった。
「いてっ!」
「ごめん」
言いながら、持っていた木刀で首を殴打した。
「ごほっ!容赦なさすぎ!」
地面に倒れ伏したレイフが文句を言っているが、それに応える暇はない。
ウォルターとアウロニスが肉薄してきた。
協力するつもりか。
咄嗟にレイフの木刀を掴み、右の木刀でアウロニスの一撃を、逆手で持っている左の木刀でウォルターの一撃を受け止めた。
「うおっ」
左手の木刀をウォルターの刃に這わせて滑らせると、ウォルターが態勢を崩す。
そして右の木刀に全身の力を使ってアウロニスを押し返した。
「ちっ!」
態勢を崩さず離れたアウロニスに、逆手の木刀を振り、受け止めさせ、右の木刀を頭上からお見舞いしようとしたところで、また邪魔が入る。
ウォルターだ。
この2人、連携できなさそうなのに、嫌なところでタイミングを合わせてくる。
溜息を吐きながら、屈んで右の木刀を背中にやり、ウォルターの木刀を受け止めた。
「はあ!?」
その声はアウロニスだったが、それを無視して、2人の木刀を渾身の力で跳ね飛ばす。
「なっ……つよっ!」
ウォルターの漏れ出てしまった声を聞きながら、左回転で逆手の木刀をウォルターの脇腹に突き刺した。
「がっ!」
たぶん相当痛いと思う。
咳き込みながら、蹲るウォルターに同情し、アウロニスの方を見たら、居なかった。
「は?」
思わず声が漏れる。
後ろか。
馬鹿だな、導線じゃないか。
溜息を吐いた。
「くらえ!!」
上段で振り下ろそうとしている気配を感じながら、右手の木刀から手を離した。
この導線なら当たるだろう。
アウロニスが反応するが、気にしないことにしたのか、動作はやめない。
勘が鈍いなコイツ。
アウロニスの一撃を擦れ擦れで右半身を動かし避けながら、制御していた魔力を解除した。
一気に魔力が収束していく感覚が、体を包み込む。
ビュンと風切り音が聞こえたのと、アウロニスの頭に木刀が当たるのはほぼ同時だった。
「あ゛っ」
白目をむいて倒れていくアウロニス。
そして手元に木刀が戻った。
どさりと地面と衝突する音が響き渡る。
静寂。
誰も声を上げない中で、息を整えながら、ランスロットに向き直った。
「……全員戦闘不能みたいですが」
ランスロットは信じられないものでも見るかのように目を見開き、口を開いた。
「終了!」




