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静寂の修練場に、一つの拍手が響き渡る。


ヴァレリアンだ。


「素晴らしい勝負だった。特に、レイフ君。シリウス君の評価通り、かなり成熟している。これはウォルターとも遜色ないかもしれん!」


全員がそちらに目を向け、褒められたレイフは、少し照れくさそうに視線を外している。


名前を出されたウォルターが、ヴァレリアンのもとへ足を運ぶ。


近くに居たアウロニスも後ろからついてきていた。


「私もそう思います。特にしなやかな動きが印象的でした。私に欠けているところです。そうだな?シリウス」


振られて首肯する。


常々、言っている柔軟さだ。


「うむ、良いものを見させてもらった。それに」


そこで言葉を区切ったヴァレリアンは、ドリアンに目を向ける。


ドリアンが肩をビクつかせた。


「ドリアン君の動きもなかなかだった。通っている騎士学校では上位に食い込んでいると聞く。これからの成長にとても期待している」


ヴァレリアンの言葉に、ドリアンが顔を上げて瞳を揺らす。


「……はいっ」


俯いた拍子に、水滴が地面に落ちていった。


「ドリアン兄さんが負けるだなんて……ありえない!レイフ!お前ズルしたんだろ!」


声を張り上げたのはダンカンだった。


顔を歪めて、レイフに指をさしている。


ドリアンが近くに行き、肩に手を置いた。


「……やめろ。ズルはしていない。俺は負けたんだ」


ドリアン自身が認めたことに、ダンカンは言葉を失っている。


勝負をしていないのに息が荒くなって、そして涙を流した。


「ドリアン兄さんはいつだって努力してた!誰よりも努力してた!こんな腰抜けなんかより、たくさん努力してたんだ……っ!レイフなんて……これっぽちも勝てやしないんだ!」


その言葉は修練場に良く響いた。


良くも悪くも、ドリアンとダンカンは兄と弟なのだろう。


だから、その下の弟であるレイフの突出した才能は、受け入れ難く、排除したかったといったところか。


ふっと息を吐く。


そして、その一番の責任を取らなければならないのは、不干渉を貫いていた親だ。


「……ドリアン、ダンカン。お前たちは私に虚偽の報告をしていたのか……?」


信じられないという顔でギデオンが口を開く。


ドリアンは素直に謝った。


「申し訳ありません。父上。……嫉妬のあまり、レイフの評価を過小評価して報告しておりました」


言い訳はしない。


ただ事実だけを口にし、頭を下げた。


「ドリアン兄さんっ!」


ダンカンが近寄る。


レイフは黙ってそれを見ていた。


周囲も何も言わず、ギデオンの言葉を待っている。


ギデオンが手を振り上げた。


暴力に出るのか。


目を細めて、睨む。


いざという時は止めに入るつもりで、じっと観察する。


レイフが耐えきれず間に割って入った。


「父上っ!暴力はダメです!」


「黙りなさい!レイフ!虚偽の報告をするなど、父親に対してあってはならない!」


怒鳴り散らすギデオンはきっと周りが見えていないのだろう。


それほど、信じていた息子たちが許せないのか。


ヴァレリアンもランスロットも何も言わない。


親として、間違ったことは言っていないからだ。


だが見ているところが違う。


ギデオンは子供の表面しか見ていない。


だから、結果だけ追い求めてきたドリアンたちは、その価値観に縋ってしまう。


溜息を吐いた。


口を出さないのが正解か、あるいは助言だけするか。


本当はヴァレリアンやランスロットが口添えしてくれるのが一番良いのだが、今の2人の表情は深刻そうな顔をしていない。


期待はできないだろう。


レイフは歯を食いしばり、拳を握っている。


悩んでいる間に、ギデオンは手を振り下ろし始めた。


ドリアンが目を瞑る。


それに足を一歩踏み出したところで、強かな高い声に全員の時間が静止した。


「お父様、見苦しいですわよ」


アヴェリンだ。


扇を口元に当て、カツカツと靴を鳴らしながら、ゆっくりと近づいていく。


「家の恥を晒すものではありませんわ」


目を細めてギデオンを射すくめる。


ギデオンは体を揺らし、アヴェリンを見る。


「……アヴェリン。女が口出しをするな」


静かに怒りをアヴェリンへとぶつける。


「ええ。いつもなら口出しをしませんが、どうも周囲を把握していらっしゃらないようなので、口を挟ませていただいたまでです」


胸を張って堂々とした態度に、思わず見惚れる。


ギデオンもやっと余裕ができたのか、手をおろして、ヴァレリアンとランスロットの方へとお辞儀をした。


「……お見苦しいものをお見せしました」


「いいや。父親なら、いろんな思いを抱えてしまうのも無理はない。じっくり話し合うのが良いだろう」


ヴァレリアンが苦笑をしながら言う。


ランスロットはあまり興味がなさそうで、眉を上げただけだった。


ギデオンの顔は晴れない。


しかし、今日この場ではこの話を蒸し返すことはないだろう。


息を吐く。


終息だな。


そう一人で完結していた時だった。


パチンと扇が閉じる音が修練場に響く。


アヴェリンがにこやかな笑顔を浮かべていた。


「そういえば、ダンカンは軽装をしていますが、戦えずじまいでしたね」


名前を出された本人は、きょとんとアヴェリンを見上げている。


全員がアヴェリンに集中した。


「折角ですので、どなたかと戦ったらいかがですか?そう、例えば、シリウス様などいかがでしょう?」


「……は?」


思いも寄らぬ言葉の刃に、声が漏れた。


それに同調するデイモン。


「それは名案だ、アヴェリン。僕もダンカンが気の毒だったんだ。シリウス殿、頼まれていただけますか?」


「……」


頬が引きつる。


この狩人どもが。


「おお!確かに、ダンカン君がまだであったな!……しかし、シリウス君となると実力差が大きいかもしれん」


ヴァレリアンが更に乗っかり、それにランスロットが付け加えていく。


「それならば、レイフ君、ドリアン君も参加して、3対1も良いのではないか?」


それに更に息子であるアウロニスが、反論する。


「3対1?勝負にならんだろ。俺で瞬殺だったんだから、俺も入れて4対1がベストだ」


更にウォルターが追っていく。


「私も参加させてくれ。もう一度彼とは手合わせをしたいと思っていたのだ」


ヴァレリアンが頷いた。


「よし、決まりだ。5対1で、最終試合としよう」


待て待て待て。


冗談じゃない。


「待ってください!」


思ったより大きな声が出て、全員の視線が向く。


構わず続けた。


「俺の意見はなぜ聞かないのですか!」


流石におかしいと、誰も思わないのか。


助けを求めてレイフを見ると、肩を竦めて苦笑いで返された。


ヴァレリアンが静かに肩に手を置いてくる。


「多数決だ」


納得がいかない。


何故こうなったのか。


遠い目をして、深い溜息を吐いた。



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