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「今回の試合は木刀での試合とする。魔法は使用禁止。どちらかが降参、または戦闘不能になった場合に試合終了とする」
ランスロットが、向かい合うドリアンとレイフに向けて確認事項を告げる。
両者とも頷いた。
静かな息遣いが場を支配する。
2人とも覚悟は決まっているのか、発声はない。
ただ、ドリアンの体には緊張はなくリラックスした状態が保たれている。
反対に、レイフは両手で握った木刀が小刻みに震えるほど、緊張状態になっていた。
この差は試合の勝敗に大きく影響する。
レイフが緊張をどこまで弛緩できるかが、今回の勝利のカギとなりそうだ。
ドリアンも両手で木刀を握る。
「はじめ!!」
動き出したのはドリアンだ。
突貫。
スピードはそこそこ、ウォルターと良い勝負の速さだ。
余裕な笑みを携えているので、一撃でレイフを倒せると思っているのかもしれない。
しかし、あの程度の速さなら、学園の騎士科には掃いて捨てるほどいる。
「……っ」
気後れしながらも、レイフは斜めにバックステップを踏み、突貫に対応していた。
動けている。
避けるレイフに対して下から木刀を振り上げるドリアン。
それを難なく打ち落とすレイフに、ドリアンが驚愕する。
「なっ……!お前如きがっ」
反動が大きく、木刀を引き戻すのにかなり時間を費やしている。
その隙にレイフは逆サイドへ移動した。
ドリアンは勢いをつけて、横からレイフを襲う。
目が慣れてきたのだろう。
丁度良く弛緩した緊張により、筋が柔らかくなっている。
左手だけで持った木刀を、手首を返してドリアンの木刀に打ち付けた。
しかし、力量でドリアンが勝ち、レイフの木刀は撥ね、軌道の逸れたドリアンの木刀は、レイフのふくらはぎへと激突した。
「いっ!」
痛みに呻きながら、距離を取るレイフ。
それに追い打ちをかけに行くドリアン。
レイフの防戦が何合か続いた。
ドリアンの両手でしっかりと木刀を持ち、丁寧に切り結ぶ姿は、騎士科試験の時のレイフによく似ていた。
見様見真似という言葉もしっくりくる。
技の一つ一つの間にわずかな隙はあるが、勢いをつけた相手に対して、その隙を突くのは結構難しい。
自分で作るか、相手が大きい隙を作るのを待つか。
レイフを観察する。
防戦だが、確実に反応はレイフの方が速かった。
レイフの剣術の醍醐味は、《応用力》。
柔軟な思考が、相手を翻弄する。
レイフが木刀の握り方を変えた。
頬が上がる。
来る。
逆手に持った木刀で、上段から振り落とされるドリアンの木刀を横から打った。
思いも寄らない負荷が木刀にかかり、バランスを崩すドリアンに、レイフは木刀の軌道に乗り、体を逆立ちにさせ、上に来た足で木刀に蹴りをお見舞いした。
「なっ……!」
「まだ行くよ、兄さん」
着地し、素早く右手に握った木刀で、倒れてくるドリアンに下から木刀を打ち付けようとする。
ドリアンも負けじと足を踏ん張って、それに対応しようとするも、咄嗟のことで木刀をしっかり握っていなかった。
カーンっと鳴り響いた木刀同士のぶつかり合いに負け、ドリアンの木刀は宙を舞う。
木刀が落ちるのと、ドリアンの首元にレイフの木刀の先が付きつけられるのは、ほぼ同時だった。
尻もちをついたドリアンは、レイフを睨みつけている。
対してレイフはじっとドリアンを見つめているだけだった。
2人の荒い息遣いが、空気を震わす。
「……っ」
ドリアンはもう動けない。
でも、プライドが邪魔をして、降参とは言えないのだろう。
唇を嚙んでいる。
そんなドリアンを見て、レイフは笑った。
清々しい、嬉しそうな顔だった。
「……ドリアン兄さん。楽しかった!またやりたい」
純粋な喜び。
勝ったということよりも、本気で打ちあうことへの喜び。
ドリアンは勢いよく顔を上げて、レイフを見た。
瞳が揺れている。
その瞳に宿っている感情を、推し量ることはできない。
「……」
「……剣術の基礎、丁寧に教えてくれてありがとう。ドリアン兄さん」
ドリアンは、その言葉に、眉を寄せて俯く。
「……基礎、まだ、できてないところあるぞ」
声は掠れて、口調は刺々しい。
それにレイフはくすりと笑った。
「じゃあ、教えてくれる?」
ドリアンが、唇を尖らせる。
「……優しくはしてやらないからな」
「望むところだよ」
レイフが差し出した手をドリアンが握り返した。
和やかな雰囲気が広がり、その場はドリアンの声により、終息となる。
「……降参します」
試合終了の合図ともに、一瞬の静寂が訪れた。




