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オルフェウス伯爵は、目はヴァレリアンへと向けているが、体の方向でこちらを意識していることは分かる。


そしてその後ろから視線を感じるのは3つ。


一女と、ドリアンとダンカンだ。


一女は熱い視線を、ドリアンとダンカンはかなり鋭い敵意を感じる。


子供は感情が分かりやすくて、助かる。


レイフは、見られたくないのか、縮こまって俯いていた。


オルフェウス伯爵とヴァレリアンの会話が一言二言続いた後、オルフェウス伯爵は興味を隠し切れずに、視線をこちらへと向けた。


「そういえば、そちらの方は初めて見る。ちらりと聞こえたが、バルタザール伯爵が後見人を務めているとか。少しお話がしたい。よろしいでしょうか、ヴァレリアン閣下」


「ああ、構わないよ」


あたりさわりのない笑顔でヴァレリアンが身を引く。


オルフェウス伯爵が目の前に来た。


一礼。


「お初にお目にかかります。シリウスです。平民ですので家名がありません。ご容赦ください」


「初めまして、私はギデオン・オルフェウスだ。後ろの子らは私の子供だ。ほら、挨拶しなさい」


横にずれるギデオンの表情や仕草は、かなり好印象だ。


ヴァレリアンやランスロットとは違った、穏やかさが感じられる。


まず、前に躍り出たのは、ずっとギデオンについて回っていた濃い茶髪に黄緑色の瞳を持つ美丈夫。


兄弟の仲では一番顔の造詣が良く、柔和な笑みはギデオンにも、レイフたちにも似ていない。


「初めまして。私は、長男のデイモン・オルフェウスです。騎士見習いにはなりませんでしたが、バルタザール騎士団長のことはとても尊敬しております。シリウス殿とも仲良くなれたら光栄です。以後お見知りおきを」


眉がピクリと動く。


このタイプは苦手だ。


たぶん、ウォルターよりもたちの悪い貴族の中の貴族だ。


腹の底が知れない。


そっと一礼をするだけに留めた。


「初めまして。わたくしは、アヴェリン・オルフェウスですわ。平民だそうですが、所作も姿見もとてもお美しいですわね。仲良くなれましたら、光栄です。よろしくお願いいたします」


一女が見事なカーテシーを見せつける。


ふわりとした言葉遣いに交じり、強い口調が顔を出している。


強気なタイプだ。


熱い視線の理由は、手駒にしたいからかもしれない。


同じタイミングで、一礼をする。


そして次に出てきたのは、ドリアンとダンカンだった。


「初めまして。俺は次男のドリアン・オルフェウスだ。よろしく」


「俺は、三男のダンカン・オルフェウス」


明らかな大柄な態度に、ギデオンが口を出す。


「もう少し、丁寧にあいさつしなさい」


「でも、父上、平民ですよ!そんなにかしこまる必要なんてないでしょ!」


ダンカンがギデオンに苦言を呈すれば、ドリアンもそれに同調する。


「そうですよ、父上。平民にはこれくらいが丁度いいと思います」


この二人は、こうやって二人で押し切る形をずっと続けてきたことが分かる。


ギデオンも、長男のデイモンも、困った顔をしていた。


「すまない、シリウス殿。うちの愚息が無礼を働いた」


「いえ、事実ですので」


目を細めて、ほんの少しだけ口角を上げてやれば、ギデオンはあからさまにほっと胸を撫でおろしている。


さて、最後はレイフかと待ち構えていると、ギデオンが口を開いた。


「ありがとう。シリウス殿。寛大なお心に感謝する。しかし、口は悪いが、あの二人の実力は本物だ。ぜひ、君にはドリアンとダンカンの実力を見ていただきたい」


まるで挨拶は終わりかのように話が進行している。


違和感を覚えて、眉を寄せた。


「……失礼ですが、もう1人、ご子息が見えますが」


触れないギデオンに、言及すると、きょとんと目を瞬かせる。


そして、笑った。


「ああ、四男のレイフ・オルフェウス。不出来な息子で、こういう社交場も苦手なようで、あまり喋りたがらないんだ。どうか容赦してやってほしい」


明らかな異物を見る目に、虫唾が走る。


こいつもか。


「父上、ここは挨拶させておいた方がよろしいかと思いますが」


デイモンがギデオンに耳打ちをしている内容を聞き、ギデオンが考えている最中に割って入った。


「……いいえ。結構です。レイフのことは知っていますので」


その言葉にオルフェウス一家全員が凍り付く。


レイフも顔を上げてこちらを見ていた。


やっと、視線が合った。


「レイフ、挨拶ぐらいしてくれ。流石に社交がなってなさすぎる」


近づきながら、いつもの調子で呆れを見せると、レイフは目を右往左往し始めた。


「……い、いや、シリウス……俺は……」


「昨日のパスタで体調でも崩した?」


いつも通り、冗談をぶつけてやる。


すると、レイフはきょとんと間抜けな顔になって、眉を寄せて笑った。


「……そんなわけなくない?あそこのパスタ最高においしかったでしょ」


「確かに、美味しかった。レイフは本当に食べ物には目がないな」


「ははっ、シリウスが関心なさすぎなんでしょ」


徐々に声のトーンが戻ってくる。


いつものレイフだ。


思わず微笑むと、会場がざわりと波打ったような気がした。


「……シリウス殿は、レイフと知り合いなのか?」


恐る恐るとギデオンが寄ってくる。


それに振り向き、表情を消して、見返した。


「はい。同じ学園の同じクラスです。入学の時からとてもお世話になっている、頼もしい友達です。本日はそんな友達の父君に会えて、とても感激しております」


「そ、そうか……」


冷や汗、頬の吊り。


目を細めた。


「教育がとても良く行き届いてらっしゃるようですね」


「あ、ああ。余念がないようにしているよ」


「素晴らしいです」


目線を下げて褒めたたえる。


それに機嫌を良くしたギデオンは、調子を少しずつ取り戻していく。


「あ、ありがとう。うちは兄弟が多いだろう。兄が弟を育てていくという形でお互いに切磋琢磨していくように教育を施しているんだよ」


自慢げに言う。


兄が弟を、ね。


目を瞑った。


ドリアンとダンカンがレイフに蔑みの言葉を浴びせる場面を思い出す。


あれが、兄か。


「レイフの兄と言いますと、先ほど紹介していただいた、ダンカン殿ですか?」


レイフの肩がピクリと反応している。


ギデオンはにこやかな笑みを湛えている。


「その通りだよ。更にその上のドリアンも一緒に目をかけてくれていてね。レイフは恵まれているよ」


レイフが目を伏せる。


その姿を見て、レイフを睨みつけた。


文句を言ってやりたいのを我慢して、ギデオンに目を向ける。


「そうですか。確か、先ほど話を中断してしまいましたが、ドリアン殿とダンカン殿の実力は本物だと仰っていましたよね。騎士科でレイフの剣術は知っています。彼を教育していたとのことなので、とても洗練された動きなのでしょう」


ギデオンが嬉しそうに笑顔を作ったところで、横やりが入る。


ドリアンだ。


その後ろにはダンカンもついてきている。


「平民のくせに見る目があるじゃないか。そうだ、俺たちは強いんだ。だから、レイフと仲良くするなら、俺たちとも仲良くしてくれよ」


「レイフの剣術は俺たちの見様見真似だからな。レイフより強いのは当たり前だ」


2人の自信満々の笑顔と、強い口調に溜息を吐く。


まだギデオンと喋っている方が、心の波風は立たない。


「そうですか。……ちなみにレイフと最後に対戦したのは、いつですか?」


質問をすると、ドリアンが片眉を上げて考え込む。


「えっと……確か1年ほど前か?」


騎士科に入って半年ほど経つ。


レイフと手合わせをしたことはないが、授業の時は必ず一緒になるので、剣術の上達具合は把握している。


騎士科試験の時より格段に動きは良くなっているのだ。


今ならサイラスにだって、互角程度には張り合えると思う。


ドリアンとダンカンの実力は知らないが、成長速度が速いので確実に二人の実力を追い抜いているだろう。


「シ、シリウス!」


レイフが何かを察知したのか、顔を上げて声を張り上げる。


「へ、変なこと、考えないでよ……?」


「なんのこと?」


「だから……」


その後の言葉は続かない。


レイフから視線を外した。


お前が悪い。


ドリアンとダンカンに向き直る。


「……お二人の実力を知りませんが、レイフもかなり実力を伸ばしてきています。騎士見習いになっても遜色ない程度にはかなり強いです」


特に、応用力が目まぐるしく、型にはまらない剣捌きは初見ではなかなか捌ききれないだろう。


事実、騎士科の中でも成績は良い。


ダンカンが顔を歪めて、嫌悪を露わにする。


「はあ?レイフ如きが、騎士見習い?ありえないだろ、そんなこと。平民に何が分かるんだよ」


「俺も一応騎士見習いですので」


その言葉にピシリとギデオン、ドリアン、ダンカンは体を硬直させる。


続けた。


「十分、やっていけると思います。なので、ドリアン殿とダンカン殿はそれ以上にお強いということでよろしいですか?」


それは、ギデオンに向けて放った。


汗が伝っている。


「ははっ、まさかレイフが騎士見習いの方から褒めていただけるだなんて、嬉しいことです。もちろん、ドリアンとダンカンの実力は保証しましょう」


ギデオンはドリアンとダンカンに目線を向ける。


2人はレイフを基準にされていることに不快感を感じているようで、顔を歪めていた。


「さっきからレイフレイフって、なんか嫌だな。ソイツより俺らが劣っていることなんてない。何なら、レイフと戦って証明してやろうか?」


ドリアンが片眉を上げて進言する。


思わず頬が上がった。


逆にレイフは、微かに予感を感じ取っていたのだろう、慌てて口を開く。


「……待って、ドリアン兄さん。流石に戦うこと、なくない?」


「はあ?お前が俺に口答えすんなよ。いいか。俺の名誉のためにお前が土台になるだけだから、黙って受け入れろ」


横暴な態度だが、誰も咎めない。


これがオルフェウス家か。


息を吐いて、目を瞑った。


そして割り込んでくる大人が二人。


「今、面白い話を聞いた気がするなあ。なあ?ランスロット」


「ああ、実に興味深い話だった」


ヴァレリアンとランスロットだ。


2人の登場に、その場の全員が固まっている。


「シリウス君、オルフェウスのところの末っ子が騎士見習いでも通用するとは誇張ではないな?」


まさか話に混ざってくるとは思わず、問うてくるランスロットに一拍置いて返事をした。


「……はい。なんなら、アウロニスと戦っても、観れる戦いにはなると思いますよ」


それを聞いて、ランスロットは納得顔をする。


ヴァレリアンがこれでもかと顔を綻ばせた。


「面白い!ぜひ、観たい!本当はシリウス君との対戦が見たいが、今回は兄弟対決で目を瞑ろう。うちの修練場を貸そう!明日にどうだろうか、ギデオン卿」


ギデオンは慌てて口を開く。


「と、とても嬉しいご提案でございます。愚息同士の剣術を見ていただけるなど、思ってもみない幸運です。ぜひ、よろしくお願いいたします」


ヴァレリアンがこちらにいい笑顔を向けてくる。


「決まりだな」


本当に、タヌキ爺だ。


明日の日程はパーティー後に伝えられることになり、その場は一旦の解散となった。



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