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喧騒は中心に行けば行くほど、大きくなる。


食事がずらりと並んだ机のあたりで、レイフから一番近いところで立ち止まる。


耳に意識を集中しつつ、オルフェウス家の様子を窺った。


どうやら父親と兄一人、兄二人とレイフ、そして一女は女性の集まりへと別れたようで、レイフたち三人は同年代のパーティーに参加している貴族と談笑している。


「聞いたか、今度の試験。実践を見据えた魔物討伐シミュレーションやるらしいぞ」


「お、面白そうじゃないか。俺の実力なら、余裕だよ」


「ドリアンの実力なら、そうだろうよ!」


ドリアンと呼ばれたのは、レイフの兄の一人。


濃い茶色の髪に、深緑の瞳で、背が高く、細身だが、腕の筋肉はそこそこにある。


話しているのは同じ学校に通っている生徒同士と推測できるが、上の学年のことは知らないので、レローネ学園のことか、違う学校なのかは、判別できない。


「ダンカンも前回の試験、結構成績良かったもんな。兄弟そろって優秀だからって、俺の父親お前たちとは仲良くしろってうるさいよ」


「ははっ!父親に言われなくても仲良くするよ」


ダンカンと呼ばれたレイフのもう一人の兄は、楽しそうに笑う。


オレンジに近い茶髪に深緑の瞳で、こちらはレイフと背丈は同じぐらいだが、体格が丸く、余分な筋肉がついていることが分かる。


ドリアンとダンカンは人の好さそうな態度で話しているが、レイフはその後ろでただ黙っているだけだった。


俯いて、参加する素振りも見せない。


そして話は、そのレイフへと移る。


「お前たちの末の弟も、優秀だったよな?確か、レローネに入ったって噂だけど。レイフだっけ?強いの?」


本人が奥に居るのに、ドリアンとダンカンに聞いている。


2人は、顔を見合わせた後、にやりと笑みを浮かべた。


鼻につく笑顔だ。


「レイフの実力じゃ、レローネなんか厳しいのに、運で入っちゃったのさ。可哀想だろう?ついていくのに精いっぱいだって。そうだよな?レイフ」


ダンカンが肩越しにレイフを振り向き、レイフはそれに視線を彷徨わせながら応答した。


「……えっと、そう、だよ」


ドリアンがその後に続ける。


「知らないのか?レイフがうちでどう呼ばれているのか。落ちこぼれ、だよ。家の恥だ、まったく。レイフにできることは、俺たちにただ黙って付き従うことくらいだよな」


首を振り、レイフの肩に手を乗せながら、嫌な笑みをレイフに向けている。


その状況に思わず、足を揺らして睨みつけてしまった。


レイフの話にしては、あまりにも記憶違いで、眉が寄る。


「そうか、落ちこぼれなのにレローネに良く入れたな!兄たちの名声のおかげかあ?」


談笑していた貴族がからかうようにレイフに詰め寄る。


レイフは、顔を引きつらせながら、無理やり笑顔を作った。


「……そう、かも」


「感謝しろよ!俺たちに!」


「お前は俺たちのおかげで、父上に見捨てられずにいられるんだからな」


カッと勢いよく足を鳴らして、その光景から目を離す。


もういい。


分かった。


あれは、ダメだ。


お腹のあたりが、ぐつぐつと煮え立っている。


その感情を体の奥底にしまうため、大きく深呼吸をして、歩き出した。


まずはホストに挨拶をしなくては。


向かった先はヴァレリアンのもとだった。


歓談している最中だが、構わずに近づく。


その数歩離れた位置にランスロットも居ることは確認した。


大きめに足音を鳴らし、歩いていくと、声をかける前にヴァレリアンが気が付く。


「おや?シリウスくんじゃないか」


グラスを片手に歓談中の貴族から視線を外し、声をかけてくれた。


丁寧に礼を尽くす。


「本日はお招きいただいてありがとうございます。ヴァレリアン・レオンティウス侯爵閣下」


「いい、いい。君と私の仲だ。硬くならないでおくれ」


人の好い笑顔で、大仰に肩を叩いてくる。


親しく、見せている。


流石に、貴族だ。


「……ありがとうございます」


「あの……こちらの方は……?」


歓談していた貴族が、ヴァレリアンの態度にかなり重要な人間と判断したのだろう。


丁寧な口調を使って、失礼を承知で尋ねている。


「ああ、彼は、平民だが、騎士見習いのシリウス殿だ。うちの愚息と親しくしているようで、こうして招待をしたんだよ。それに彼は、バルタザール伯爵が後見人を務めているらしい」


最後の一言で、会場中がざわついた。


ヴァレリアンの大きな声も相まって、かなり広範囲に知れ渡った。


もちろん、オルフェウス家にも確実に届いている。


こちらの意図に気づいたのか、気づいていないのか、いい仕事をしてくれた。


「……それは、それは。なんともすごいお方が後見人を務めてらっしゃる。シリウス殿、ぜひ、うちの息子とも仲良くしていただきたい」


「……はい。前向きに検討いたします」


軽く一礼をして、ヴァレリアンに一歩近づく。


何となく察したようで、少し屈んでくれた。


「……ありがとうございます。このまま、喋っていてもよろしいですか」


「よいよい。何かを狙っているのは分かっている。私は見物でもしているよ」


存分に使ってくれと、したり顔をしているヴァレリアンに、苦笑いを浮かべる。


ドレイクが、タヌキ爺と呼ぶ理由が分かった。


暫く三人で話していると、そこに大仰な身振り手振りで近づいてくる人物を捉える。


魚が網にかかった。


「歓談中、失礼いたします。レオンティウス侯爵閣下。本日はお招きいただきありがとうございます。少しご挨拶よろしいですかな」


薄茶の髪に黄緑色の瞳で、体躯は細身だが、ある程度は鍛えている、どこにでもいる中年男性といういで立ちの男が、無駄にジャラジャラと装飾を付けた服を揺らし、話しかけてくる。


オルフェウス伯爵だ。


その後ろには、娘と息子、全員ついている。


最後尾にはやはりレイフが居た。


その姿を捉えて、息を吐く。


網を引く準備は整った。



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