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朝、ランニングを終えてシャワーを浴び、くつろいでいると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
「おはようございます。ご支度の準備をお手伝いしに参りました。入室許可をいただけますでしょうか。」
丁寧な高い声に、どうぞと返事をすると、2人のメイドが入室してきた。
「本日はシリウス様のご支度の準備を手伝わせていただきます。よろしくお願いします」
メイド2人が同時に綺麗に礼を取っているのを感心しながら眺め、されるがままに服を着替えさせられた。
「とてもお似合いでございます」
ドレイクが選んだのは、青を基調に金が散りばめられた衣服。
身体にフィットする形の動きやすいものだ。
ここまではそこまで目立つ服ではないが、ドレイクが選んだのは服だけではない。
「装飾はいかがいたしましょう」
ジャラジャラと見せてくる装飾の数に、眉が寄る。
「……要りません」
「そうはいきません!!」
身を乗り出すメイドに後ずさる。
「ウォルター様にも、ヴァレリアン様にも、抜かりのないようにと仰せつかっております。もしこのままお外にお連れした場合は、私共が処分を受けてしまいます。どうかご理解ください」
その身を盾にされてしまうと何も言えなくなってしまう。
遠くに目をやり、ウォルターを一瞬恨んで、溜息を吐いた。
「……適当にお願いします」
メイドは嬉しそうに返事をした。
装飾もつけ終わり、髪のセットに入る前に、メイドがスッと差し出してきたものに驚く。
左眼に手を当てる。
ついていなかった。
「僭越ながら、お風呂場にございましたのでお持ちしました」
「……ありがとうございます」
まさか、眼帯をつけ忘れているとは思いも寄らなかった。
少し、気が緩んでいたかもしれない。
「……見苦しいものを見せました」
つけながらメイドに言うと、きょとんとした顔をする。
ニコリと微笑まれた。
「いいえ、どちらもお美しい姿だと思います」
それを聞いて、レイフたちはどう思うのだろうと考えてみる。
レイフは、痛そうって顔を歪めそうだ。
ウォルターは、どうしてそんな傷になるのかと経緯を考えそうだし、アウロニスは火傷は治せただろって怒りそう。
でも、三人とも嫌がりはしないんだろうなっていう漠然とした確証があった。
頬が緩む。
心地の良い暖かい風が身体を包んだような気がした。
――――――
パーティー会場へ入るも、視線は一瞬ですぐ霧散した。
平民が入場した程度では注目されることはないらしい。
飲み物が入ったグラスを持ちながら壁に寄りかかる。
入口から一番遠いところを陣取った。
暫くは、レオンティウス家もエレンディル家も関与してこないだろう。
続々と入ってくる貴族を眺めながら、グラスを傾けた。
口の中を甘みが充満する。
あまり好きじゃない。
「こんなところで何してるんだよ」
静かに近づいてくる足音に目を向けると、アウロニスだった。
「アウロニスこそ、挨拶とかいいの?」
横に並んだ、自分より背の高い紺色を見上げる。
紺色の髪に暗めの赤を基調にした服、髪はあげられていて、なかなか見栄えは良い。
「俺はこういうのは性に合わねえ」
グラスを傾けている。
しかめっ面をした。
「今回はハズレだな」
肩を竦めて同意した。
無言で貴族たちを見つめる。
チラチラと視線を感じるようになったのは、アウロニスのせいだろう。
「……アウロニスがいるせいで目立つ」
「はあ?お前自覚ないの何なの」
改めて視線の数を確かめる。
「……俺だけの時はこんなに見られなかったよ」
「お前見てるやつも結構いたぞ」
「知ってる」
「じゃあ、俺だけのせいじゃねえ、我慢しろ」
隣にいることは確定しているらしい。
アウロニスを盗み見た。
食事を眺めているその姿に、息が漏れる。
少し前なら隣に並ぶ姿が想像できなかったのに。
グラスを傾けた。
「……ウォルターは予想通り、社交が上手い」
ぼそりと呟いて、見える位置で貴族と談笑しているその姿を眺める。
「あいつは、次期当主だろうしな。そういうのに抜け目がないんだろ」
「騎士見習いになりたそうだったけど」
「父親と代替わりするまでってところじゃねーか?」
納得し、視線をまた彷徨わせる。
見たことのある姿を捉えた。
レイフだ。
オルフェウス一家として後ろに連なって歩いている。
確か、4男1女の末っ子だったはず。
確かにレイフと似たり寄ったりの顔ぶれが、レイフの前を歩いている。
「……兄弟の仲、悪いんだっけ」
「あ?」
ぼそりと呟いた声がアウロニスに届いてしまったようで、強めの口調が返ってきた。
思わず見上げると、アウロニスは怒っているというより、怪訝そうな顔。
「何」
「……いや、お前が兄弟の話するとは思わなかっただけだ」
「レイフの話だよ」
「それでもだよ」
言外に、弟のことを言っていると分かって、苦笑する。
「……アウロニスにも配慮ってあったんだ」
「うるせっ」
「大丈夫、ありがとう」
「……」
アウロニスは気恥ずかしそうに、視線を外していた。
レイフに視線を戻し、観察していると、暗い表情になる瞬間を見た。
何か兄の一人が後ろを向いて喋っている。
嫌な雰囲気だ。
眉が寄る。
近くで話し声でも聞こうと、壁から背を離した。
「……レイフんとこか?」
「うん」
グラスを近くのウェイトレスに預けて、貴族たちの巣屈へと、歩を進めた。




