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その日の天気は、灰色の雲が空を覆いつくしていた。
予め用意していおいた、市井を歩いていても違和感のない服に身を通す。
鏡の前に立ち、黒い眼帯を外してみた。
火傷の痕に、潰れた瞳。
隠すことは決まっているが、白い眼帯の方が、目立たないだろうか。
あてがってみて、鏡全体を見る。
違う人間みたいだ。
「……何やってんだか」
普段やらない行動に、自嘲する。
緊張か、恐怖か、あるいは別の何か。
大きく深呼吸をする。
いつも通りにしよう。
黒の眼帯をつけなおして、外に出た。
忘れ物はない。
書類も持った。
中身を入れたら重たくなった小箱を、持ったことも確かめた。
正門に向かうと、ウォルターとアウロニス、そして、レイフが立っている。
「おはよう!シリウス」
「おはよう」
レイフとあいさつを交わし、ウォルターとアウロニスの方に向く。
「おはよう、シリウス」
「おせえ」
「おはよう」
アウロニスは無視し、ウォルターにだけ応答する。
「まさか、この二人も一緒に行くとは思わなくてびっくりしたよ」
レイフが肩を竦めている。
「まあ、いろいろあったんだ、昨日」
「いろいろね」
ニヤリと笑って、ぼそりと耳打ちする。
「鬱憤晴らせた?」
「それなりには」
レイフはにかっと笑って、良かったと言った。
「おい、さっさと行くぞ」
アウロニスが顎を門の外に動かして催促してくるので、レイフが隣に、後ろに2人が控える形で歩き出した。
レイフと雑談をしながら歩く。
後ろの2人は、黙ってついてきている。
「え!?騎士団長が後見人になるの!?」
「うん」
「そうか、シリウスただの平民じゃなくなるのかあ」
「ただの平民って何」
「あ、そうか、今もただの平民ではないね。騎士見習いだし」
歯を見せて、いたずらっ子のように笑うレイフに、こちらも笑みが零れる。
やはり、レイフが居てくれて良かった。
そこに水を差すのは、あいつだ。
「なあ、コレ、どこ向かってんだよ。てか、今日の目的、聞いてねえ」
「確かに、市井に行くとしか聞いていないが、暫く歩いている。目的地はどこなんだ?」
後ろの2人を肩越しに振り返ると、不思議そうな顔と、不機嫌な顔が視界に映る。
「そういえば、俺も聞いてなかったなー。どこ行くの?シリウス」
レイフを見て、視線を街並みに移す。
親子が手を繋いで歩いている。
テラス席で談笑しあう女性たち。
新聞紙を開いて、渋い顔をしている男性。
路地裏には、行き場のない飢えた人たちが、こちらを窺っている。
その路地裏の奥に、何があるかは行かなくても、知っていた。
呼吸を意識して口を開いた。
「……親に会いに行く」
3人はすぐに口を開かなかった。
暫く足音だけが続いたが、一番最初に口を開いたのは、レイフだった。
「……え!?親?シリウスの?俺たち一緒に行っていいの?」
レイフらしい反応に、苦笑する。
「良いよ、だから許可したんだろ」
「そんな私的な用事なら言ってくれれば、私も遠慮したぞ」
眉を寄せて、心配そうな顔をしているウォルターにも手を振る。
「私的ってほどじゃない。誰が居たって問題ないよ」
「……お前の親って……どんなのだ?想像できね」
アウロニスも眉を寄せているが、その理由は全く違った。
溜息を吐く。
相変わらず、デリカシーのない男だ。
でもその答えは、自分の中に持ち合わせていない。
「……会えば、分かるよ」
思ったより冷えた声が出た。
ドレイクが教えてくれた住所まであと少し。
足取りはどんどん重たくなっていった。




