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食事が運ばれ、ヴァレリアンが食事を開始し、昼食会が始まった。
ゆっくりと手を動かそうとするが、隣からの視線が気になり、目だけそちらに向ける。
目が合った。
「……」
「……」
何かを言いたそうにしているアウロニスだったが、結局口を開くことなく、食事を開始していた。
そして、やはり一番最初に口を開いたのは、ヴァレリアンだった。
「ランスロット、久々だが、最近はどうだ?」
「どうもこうも、不景気さ。金回りが良くない」
「そちらもか……」
ヴァレリアンとランスロットで、話が盛り上がる。
「デルフィーヌさん、お久しぶりですわ」
「コーデリアさんこそ、お元気そうで良かったです」
女性同士でも話が始まる。
アウロニスの兄のオーランドとウォルターは、たまにヴァレリアンとランスロットの話に混ざっている。
その光景を視界に収めつつ、相変わらず味わう余裕もない食事を黙々と口に運ぶ。
そして隣も一緒に無言で食事をしていた。
「そういえば、シリウスくんだったか、彼はウォルター家と何かあるのかい?騎士見習いだと言っていたが」
名前が聞こえ、視線をそちらへ移す。
アウロニスも同じように自分の父親を見ていた。
「ああ、実はウォルターと決闘をしていたらしくてな」
「決闘?」
「決闘!?」
ランスロットの静かな声に重なったのは、アウロニスの悲鳴のような声だった。
礼儀もわきまえず、立ち上がり、こちらに視線を寄こしてくる。
「おい!そんなの聞いてないぞ!!」
「言ってないからな」
「言えよ!!」
「何で」
「……俺にも付き合え!」
「……」
断りたいが、流石に親のいる前ではあれかと、目線を逸らして口を噤んだ。
「……おい!無視すんな!」
「アウロニス。はしたないぞ」
「……っ」
ウォルターが嗜めると、歯を食いしばって席に座る。
その光景をじっと見ていたランスロットが、眉を寄せているのを見てしまった。
無意識に背筋が伸びた。
「シリウス君は、アウロニスとかなり親しいようだ。して、決闘はなぜウォルターくんと?」
「私が頼み込んだのです」
先にウォルターが口を開いた。
「ウォルターが?珍しいね」
オーランドはウォルターとそれなりに付き合いがあるようで、かなり崩した口調をしている。
「彼の強さに尊敬を抱きまして、自分がどれだけ通用するのか、確認したかったのです。結果は惨敗でしたが」
惨敗という言葉とは裏腹に、顔はすっきりしていた。
「こいつに勝てる奴なんかいるのかよ」
「それは確かに。彼の負ける姿は想像できないな」
アウロニスの言葉にウォルターが同調すると、視線が一気に集まる。
更に居心地が悪くなり、目を伏せた。
最悪だ。
「ほお、アウロニスにもここまで言わせるなんて。ぜひ実力が見てみたい」
ランスロットの感心している声に、嫌な予感が過った。
聞きたくない。
「そうだろう?私も昨日決闘でウォルターがどうだったか聞いたら、かなり的確な総評をしていてな!彼の実力が気になるところだ」
「どうだろう、ここはうちの愚息と模擬戦をしてもらうというのは」
嫌な予感は良く当たる。
「模擬戦は1回だけやってるから、俺も真剣の決闘がやりたい」
「いつやったんだ?」
アウロニスにウォルターが質問をしている。
「騎士科試験の時だ。あの時は木刀だった」
「ああ、それは聞いたな。確か、アウロニス、君がこてんぱんにやられたって」
「うるせえっ」
話はどんどん膨れ上がる。
「アウロニスがこてんぱん?アウロニスはかなり強いじゃないか」
オーランドも参加した。
「ウォルターの時は、最初ウォルターが優勢だったと聞いたが?」
「はあ?俺の時なんか、最初っからバカスカ打ってきたぞ」
その言葉に肝が冷えて、息を止める。
「騎士科試験の模擬戦は魔法使用不可だろう?私は魔法と剣を交えた戦術を使った」
ウォルターの言葉に、あいつは爆弾を落とした。
「はあ?魔法発動には数秒かかるだろうが。それ以上だったぞ、シリウスの速さは」
思わず目を瞑った。
視線がこちらに集中しているのは分かる。
でも、見たくなかった。
しかし、それをあいつは許さない。
「お前、手加減したな」
明らかにこちらに向けられた言葉に、観念して溜息を吐いた。
「……違う」
「何が違うんだよ」
「アウロニスとの模擬戦とは意味が違うって言ってるんだよ」
「戦いは戦いだろうが」
不機嫌なその声に、アウロニスを睨みつける。
「……ウォルターは真剣だった」
「ああ?俺も真剣だった」
「お前はただの嫉妬」
「……っ」
「だから腹が立ってた。それだけ」
沈黙。
そして豪快に笑ったのは、ヴァレリアンだった。
「それはいい!面白い!君からそんな強い感情が見れるとは思わなかった!」
驚きに思わず身を引く。
そして、次の言葉は、この部屋の人間を全員、凍り付かせた。
「シリウス君、やはり、君は面白い。昨日、ずっと考えていたんだが、私に後見させてくれないだろうか」
目を見開く。
冷や汗が流れる。
ああ、ついに来たか。
ゴクリと喉を鳴らした。
黙っていると、ヴァレリアンは更に、言葉を重ねる。
「悪い話ではないだろう?騎士見習いとはいえ、平民の身ではなかなか生きづらいだろう。私が後ろ盾になれば、かなり生活も楽になるんじゃないか?」
「父上、あまりに唐突です」
ウォルターが嗜めるが、ヴァレリアンは臆さない。
「良いじゃないか。お前にとっても悪い話ではない。何なら、彼に一緒に住んでもらって、指導してもらったら、もっと力をつけられるだろう」
「確かにそうですが……」
ウォルターがこちらを一瞥した。
今、どんな顔をしているだろうか。
「どうだろうか?シリウス君」
沈黙。
視線が集まっているのを感じながら、目を伏せて、口を開いた。
「……嬉しい提案ですが、お断りします」
「……理由を聞いてもいいかい?」
何となく雰囲気で察していたようで、驚きはない。
ドレイクの言葉を思い出した。
―――この際、俺が正式に後見人なるか。
一呼吸置いた。
「……バルタザール伯爵が後見人なってくれるので」
空気が張り詰める。
それに一番最初に口を開いたのは、やはりあいつだった。
「……はあ!?ドレイクさんが後見人!?」
それに続く、ヴァレリアン。
「あの、筋肉頭でっかちがか!これは先手を取られた!」
おでこに手を当てて、空を仰いでいる。
「申し訳ありません」
座ったまま頭を下げれば、ヴァレリアンはにかりと笑った。
「良い良い。その代わり、君の実力は観たい。この後、真剣でのアウロニスとの稽古。観せてくれるかい?」
有無を言わせない圧に、流石に断ることはできなかった。
「……はい」
「っしゃ!!」
ガッツポーズをとるアウロニスを睨みつけたのは言うまでもない。
食事が再開される運びとなった雰囲気に、静かに溜息を吐いた。




