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夜明け前、ランニングのためにレオンティウス家の正門付近で立っていると、後ろからラフな格好をしたウォルターが現れた。
「こんな時間から走っているんだな」
「騎士見習いは必ずやらなければならないから」
「なるほど。私もこれから毎日走ろう」
昨日に敷地の周囲を早朝に走って良いかと確認したところ、自分も行きたいとウォルターからの申し出があったので、2人で外周することになっていた。
走り出すと、斜め後ろからウォルターもついてくる。
体力温存のため、無言で走ること数十分。
ウォルターのペースが落ちてきていた。
距離がある程度出てきたところで、ペースを落として横並びになって走る。
「ま、まさか、こんなにも走るとは」
「持久力、課題だね」
今は外周の半分ほどだった。
「あとは動きに無駄が多い」
「……無駄、とは」
喋るのも辛そうだが、構わずに続ける。
「使わなくていい筋肉まで使ってるってこと。そのうち分かってくると思う」
ウォルターは一生懸命手足を動かすが、殆ど進めていなかった。
脇腹を抑え、息遣いは荒い。
「まだ半分くらいあるけど、走れる?」
「が、頑張る……」
いつもの強かな口調などみじんも感じない、か細い声だった。
ここで手を差し伸べるのは、ウォルターのためにならないだろう。
「頑張って」
一言だけ残し、ペースを上げてランニングを再開した。
――――――
ウォルターが戻ってきたのは、シャワーを浴び終えて水を飲んでいる時だった。
窓をぼうっと眺めていると、正門付近で倒れているのをメイドが発見し、大慌てで部屋に連れていかれていた。
流石にその光景は面白くて、笑ってしまった。
今日は、他の貴族も到着し始めるそうだ。
借りている部屋がある本邸は、訪れる2家の侯爵家が、その下の家格の貴族は別邸にて、パーティーの数日まで過ごすと説明された。
平民が本邸に居ることがどれだけ異質か。
居心地の悪さが胸中を占めるが、客だからと言われればそれまで。
昼食から一緒に食事になる。
忌避感はあるが、避けることはできない。
胃が重く感じ、誰も居ないことを良いことに大きく溜息を吐いた。
――――――
お昼時。
執事に呼ばれ、部屋を出る。
訪問する貴族の名前までは聞いていない。
食堂でウォルターから三つ開けた席に座って、来客した侯爵家を待つ時間は長く感じた。
「もうすぐで来るだろう、もう少し待っていてくれ」
ウォルターがそう言い、頷くだけで返す。
ほどなくして、扉が開いた。
「申し訳ない。遅くなったな」
そういって入ってきたのは、筋肉質で体格は大きいが、清潔感のある男だった。
髪色と瞳の色は、紺色。
そして、その後ろには夫人と思われる女性と、同じく髪色と瞳が紺色の、細身の男性。
ここまで確認して、同じ髪色と瞳の騎士見習いを思い出して、その男と同一人物の男が、一番後ろから現れた。
アウロニス・エレンディルだ。
「は!?何でお前がここに居るんだ!!」
こちらがアクションを起こす前に、指をさして、叫ぶ。
視線が一気に集まった。
「なんだ、知り合いか?」
父親と思われる男がアウロニスに確認するために肩越しに振り返った。
それを視界に入れつつ、ゆっくり席を立ち上がり、礼を取る。
「お初にお目にかかります、シリウスです。昨日より同席させていただいています。本日はよろしくお願いします」
アウロニスのうげっという声は無視され、父親が口を開く。
「家名がないってということは平民か……しかしなかなか礼儀がなっているな。私はランスロット・エレンディル。隣が、妻のコーデリアと、長男のオーランドだ。アウロニスは知っているのかな?」
見た目通りの丁寧な言葉遣いだ。
アウロニスとの差が激しい。
「はい。同じ騎士見習いとして、お世話になっています」
「なるほど、騎士見習いだったか」
「父上、そろそろ」
ぼそりと長男のオーランドが、ランスロットに耳打ちする。
「ああ、そうだな。席に座ろう」
レオンティウス家にも一言謝罪を伝え、それぞれ席に座る。
アウロニスは隣だった。
座るまでお互いに視線は合うことはなく、奇妙な昼食会が始まった。
変更点
アウロニスの兄『オルフェウス』→『オーランド』
《理由》
レイフの家名、『オルフェウス伯爵家』と被っていたため。
大変、失礼いたしました。




