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食堂に入ると、既にヴァレリアン、デルフィーヌ、ウォルターが座っていた。


「お待たせして申し訳ありません」


「いいんだ、客人を待たせる訳にはいかないからな」


執事に案内されて、ウォルターの隣に腰掛ける。


食事が運ばれ、ヴァレリアンが動き出したのを確認してから、食べ始めた。


カトラリーの音が食堂に響く。


口に運ぶも、味わうほど余裕もなく、義務的に手を動かし続けた。


「なかなか、洗練された動きをしている。到着した時の礼を見ても思ったが、どこかで習っていたのかい?」


ヴァレリアンを一瞥して、視線を戻す。


「特には」


また、沈黙が落ちる。


「父上、あまり変なことを聞かないで下さい」


ウォルターの咎める声が聞こえて横を盗み見ると、怒っているというより、不機嫌な顔をしている。


ヴァレリアンはそれをカラリと笑うことで受け流していた。


「すまない。どうにもウォルターが絶賛するものだから、どんな子なのか気になったのだ。気分を害してしまったのなら、謝るよ」


「いえ」


短く返答し、また食事を続ける。


「君は肝が据わっているな」


「……」


どう返していいか分からず黙っていると、ウォルターが溜息を吐いてヴァレリアンを射すくめた。


「父上」


守ろうとしてくれているのだろうか。


誘われた時も乗り気じゃないのはバレていたから、気にしているのかもしれない。


暫くの沈黙の後、やはり、ヴァレリアンは口を開いた。


「じゃあ、ウォルターとの決闘の話はどうだ?それなら、少しは話せそうか?」


ヴァレリアンが片眉を上げながら、窺うように目を向けてくる。


「……はい」


目を伏せて応えると、満足そうに、にかりと笑った。


「愚息が君に申し込んだと聞いた。迷惑をかけたな。まずは謝ろう」


座ったままヴァレリアンが頭を下げる。


突然のことに、目を見開いた。


「いえ、迷惑と思っていません」


幾分か強めの口調で応じると、ヴァレリアンが頭を上げる。


それにホッと胸を撫でおろした。


流石に貴族に頭を下げられるのは、心臓に悪い。


「ありがとう。決闘の勝敗は君の圧勝だったと聞いている。そこで率直に騎士見習いである君のウォルターの実力についての見解を聞きたい。どうだった?」


隣が息をのむのが分かる。


圧勝と言ったのは、ウォルターか。


「……そうですね。まず圧勝というほどではありません。最初はウォルターに圧されていた形です」


「あら!そうなの?」


一番に声を上げたのは、今まで黙っていたデルフィーヌだった。


口元を手で隠しているが、嬉しそうな顔をしている。


「そこで喜ぶんじゃない、はしたないぞ」


「だって、嬉しいじゃないですか」


ヴァレリアンが苦言を呈するが、デルフィーヌは今度こそ顔を見せてニコニコしている。


「ごめんなさいね。続けて」


優しく促され、慣れない視線に目を逸らした。


「……剣術はまだ伸びしろがあると思います。基礎は丁寧ですが、身体的にも対応の仕方ももう少し柔軟になれば、いつかはアウロニスと渡り合えるようになるかと」


「あの、騎士見習いの試験を齢10歳にして突破した彼にか!それは僥倖だ!」


ヴァレリアンは嬉しそうだが、当の本人はちょっと複雑そうな顔をしている。


「柔軟というと、指摘してきた手首の件か」


どうやら、どこを改善すればいいのかが知りたいらしい。


頷いた。


「身体的にというのは手首もそうだけど、体の関節全般だな。あとは応用力。これはたぶん場数を踏まないとどうにもならないと思うけど……」


「そうか。取り入れられるものは早く取り入れていこう。参考までにどのような柔軟をしているか後で教えてくれるか」


真摯な目に、無意識に頷いていた。


この家にいる間くらいならいいだろう。


「後はどうだ?」


ヴァレリアンに促され、またそちらに目を向けた。


「魔法と戦術については、たぶん学生の域を超えていると思います」


「ほお、詳しく」


ヴァレリアンが身を乗り出す。


「魔力操作が洗練されていて、陣の形成速度も申し分ないです。最初に圧されてしまったのは、剣術に魔法を散りばめた戦術を使っていたからです。戦闘にあそこまで使えるのなら、実践でも扱えます」


「なるほど……」


瞠目しているヴァレリアンに、少し嬉しそうなウォルター。


デルフィーヌは終始、笑顔だ。


「戦術は、決闘ではなく、その前に行った合同実技の授業での立ち回りが的確でした」


「待ってくれ!あれは君の方がよく見ていたと、教師も言っていたではないか」


納得がいかないのか、ウォルターがこちらに詰め寄ってくる。


驚いて、咄嗟に体を下げた。


「……すまない」


「いや……俺はどっちかというと戦闘の最中ではなく、その前の作戦会議を褒めてるんだ」


言えば、ウォルターは聞く姿勢になる。


「一人一人の実力を把握し、的確に配置する。得られる情報があるならば、平民にも情報を提供してもらうその姿勢が、俺は指揮官向きだと思う」


「良い評価だ……君は本当に学生かい?」


感心しているヴァレリアンのその言葉には応えず、代わりに爆弾を落とす。


「ちなみにこのことは、ドレイク騎士団長にも伝えました」


「何!?」


「え!?」


「……?」


ヴァレリアンとウォルターが身を乗り出した。


デルフィーヌは良く分かってないようだが。


「あの筋肉頭でっかちは何て!?」


「……いつかは自分の隊に入れるのもいいと」


「はは!これは参った!君は本当にすごいな!」


ウォルターは口を開けて停止している。


状況が飲み込めないのだろう。


それほど、ドレイクという人間は雲の上の人間なのだ。


「気分がいい!今日はいっぱい食べていきなさい!」


そういって豪快に笑うヴァレリアンと、未だに停止状態のウォルターを横目に、食事を再開した。



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