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「お願いしますっ、お金をくださいっ」
お腹が空いた。
喉も乾いた。
体中が擦り傷だらけで、風に触れるだけで痛い。
ボロボロの服のせいで寒いし、倦怠感もある気がする。
でも、そんなことどうだっていい。
それよりも―――
「……弟が、苦しそうなんです。薬を買うお金をっ……ください」
膝をついて、出る限りの声を振り絞る。
それでも返事はない。
もっと大きな声を出さなければ。
息を、大きく吸い込んだ。
「薬をっ、ごほっ……買わせてください!何でもするから……お願いしますっ」
咳き込みながら繰り返す。
頭も床に擦りつけた。
「なんか、言ってんぞ~」
男の声が部屋に響いた。
顔を上げて男を見れば、酒を飲んで机に突っ伏している。
「はあ?知らないわよ」
次は女の声。
鏡の前で化粧をしている。
反応してくれた。
男の方に近づき、また頭を下げる。
「……薬を買いたいんです。お願いします。弟の熱が下がらないんです」
懇願する。
手を差し伸べてくれることを願って。
しかし、返ってきたのは、お腹に強い衝撃だった。
「……っごほ、っ……」
蹴られた。
ズキズキと痛むお腹を、手で押さえる。
息が詰まって、涙が出た。
苦しい。
「うっせえよ。ほかっとけば治んだろ。つーか、お前臭い」
男の声に目を細める。
息を吸って、体に力を入れ、また膝をつく。
「……っお願いします。……何でもするからっ……弟を、助けてくださいっ」
声が上ずる。
男の目を見るも、視界は定まらなかった。
「ちっ、うぜえな……」
立ち上がった男に身構える。
男の足が頭上に降ってきた。
ゴッ、と頭を地面に打ち付けられる。
「……っあ゛」
脳が揺れ、視界がくるくると回る。
「おい、どうにかなんねーのか?コレ」
身体に力が入らない。
呼吸をすることだけに精いっぱいになった。
歯を食いしばる。
諦めたくない。
弟のために、何としてでも。
拳を握る。
「ええ?ほかっとけばいいんじゃない?」
「うるせえんだよな」
「じゃあ、少しあげれば?どうせ、あんたカジノでしょ?」
「お前があげればいいだろ。服とか化粧道具とか買う金があるならよ」
男と女の会話が遠い。
別の世界の話を聞いているようだった。
「はあ、子供って本当に、面倒ね」
足音が近づいてくる。
女の足が見えた。
ジャラジャラと、銅貨が何枚か地面に落とされる。
「これでいい?うるさいから、もう喋らないで」
頭を踏みつけられたまま、銅貨を目で追う。
足りるだろうか。
今日のご飯を我慢すれば、あるいは。
男の足が離れて、顔を上げる。
お礼を口にしようとした瞬間、またお腹に衝撃が訪れた。
「……がはっ」
今度こそ耐え切れずに地面に倒れこむ。
お腹を押さえて痛みに耐えた。
「さ、カジノ行ってくるか」
「あ、私も~、今日は何で遊ぼうかしら」
足音が遠ざかり、荒い息遣いだけが、鼓膜を揺さぶる。
呼吸を何度か繰り返して、目を開けた。
行かなきゃ。
痛む体に叱咤して、体を起こす。
這いずるように、丁寧に銅貨を拾った。
―――良かった。これで、買える。
落とさないようにぎゅっと握って、体を引きずりながら、薬屋に向かった。




