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デイン視点です。
同室者の朝は早い。
ランニングをした後、シャワーを浴びて、朝食を食べに、寮を出てしまっている。
最初に会った時は、自分よりも背が低いのに、端正な顔立ちに眼帯の出で立ちだからか、かなり怖い印象を受けた。
口数も少なくて、同室者としての挨拶は、「よろしく」だけだった。
暫くは少し避けていた節もある。
その距離が変わったのは、あの時だ。
図書棟に向かう途中の廊下で、よくパーティーとかで会う、伯爵家の上級生。
会うときは大抵、公的の場だから強く出ることができない反動で、学園で会ってしまって、かなり罵詈雑言を吐かれた。
家では自分が自分に対してしか言わないセリフを、他人に言われて心がぽっきり折れてしまった。
学校がつらく感じたときに、彼が現れたのだ。
黒髪が視界にふわりと入り込んだ、その時の言葉は一生僕の中で残り続けると思う。
『魔力が無いから、才能が無いから劣っているという考えは、薄っぺらいな。努力している人間を見下してもいい理由にはならない』
彼は堂々と胸を張って立っていた。
その姿、綺麗だった、かっこよかった、羨ましかった。
憧れてしまった。
だから、距離を詰めた。
お礼のために、高級茶葉を取り寄せて、彼が帰ってくる前に起きて、準備して、紅茶を用意して。
そして、思ったより彼がすんなりと受け入れてくれたことが嬉しかった。
だから、今はそのほっこりする時間が欲しくて、紅茶を入れている。
彼の背負ってきているものが何なのか。
彼の追ってきた傷がどれだけ深いのか。
たまに見せる悲しい顔の理由は何なのか。
彼のことは知りたいけれど、知りたくない。
きっと彼も言わなくていいと思っている。
今が大事だから、立ち続けている。
そんな彼の隣に並び立ちたい。
彼の横から支えてあげられるような存在になりたいと、思っている。
今日も紅茶を入れる。
扉が開いた。
「シリウス君、おはようございます」
――――――
「そういえば、この本、読みました?」
「読んだ。魔法薬学の本質」
「内容、僕はうさん臭さしか感じなくて、どう思います」
「魔法薬学とは、神が生み出した、人類の救済だってところ、意味が分からなくて、一回閉じた」
「ふふっ、一緒です」




