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「おはよう、シリウス」
寮でそこそこに休憩し、教室でいつもの席に座っていると、隣に座ってくる薄茶の髪に深緑の瞳を眠そうに細めた不真面目そうな男。
レイフ・オルフェウス、オルフェウス伯爵家の四男だ。
入学式の日に隣に座ってからよく話すようになり、今では隣同士に座るのが定位置になっている。
「今日から専攻科目に入るのか。やることが増えるのは面倒だよな」
欠伸をしながら言っているが、正直見た目とは違って本人は結構真面目よりで、突破してきた教養試験の結果は割と悪くなかったはずだ。
今回の専攻科目の情報も、レイフから聞いたことばかりだったりする。
「今日はまだ申し込み段階って言ってなかったっけ」
「そうだよ、その申し込みが大変なんじゃん!試験試験試験!明日は魂が抜けてるかも」
専攻科目の特徴としては教養と違って自分たちで選べるところであるが、それぞれの科目で各クラス毎の定員が決められており、定員を大きく上回る場合は試験が設けられている。
レイフの選ぶ学科がそれに当てはまるため、嘆いているのだろう。
「騎士科?」
「魔法科と経済学科もね、俺が選ぶところは全部試験あるんだよ」
6科目のうち人気はレイフの言った3つの科目で、単位が取りやすいことで有名らしい。
逆に魔法薬学科と魔法工学科、そして錬金学科は覚えることも多く、やることも多く、単位を取るための試験もヤマが張りづらいということで人気がないのだとか。
「そうか、騎士科と魔法科、両方試験あるのか」
「おう、受けるの?」
「受ける」
「へえ、もう一つは?」
「錬金学科にしようと思ってる」
「錬金学科だって!?」
大きい声に顔を顰めれば、ブツブツと何やら喋っている。
「錬金といえば一番の不人気じゃないか、何でそんなところを。あ、知らないだけか、教えた方がいいか?いや、ある程度どんな授業かは伝えたし分かってると思うんだが。それなら別にいいか?でも、期待してたらな……」
「そんなに心配されるとは思わなかったけど、興味があるだけだから」
「興味ってな……」
錬金学科が不人気なのは、そもそも錬金魔法というものが、日常生活になくても困らないものだからである。
さらに未知の領域の部分が大きく、授業とはいっても、基礎知識を習ったら、ほとんど各々で研究という形になるとレイフから聞いている。
だから自由度があって興味が湧いたし、錬金で有名な永遠のテーマと呼ばれるものが気になった。
『賢者の石』を生成すること。
永遠、死を超える力を秘めたモノ。
実際に生成できるかどうかも分からないし、多くの人間が荒唐無稽だと口を揃えて宣う。
信じているわけではないが、そんなものがあればいいなという興味本位だった。
「シリウスって変わってるよな、平民なのに美形だし頭も良いし、なんとなく貴族の雰囲気もあるし、本当はお忍びで通っている王族だったり?」
にやりと笑うレイフに呆れて溜息を吐いた。
「何を言ってるんだ、今の王族は国王しかいないだろう?結婚もしてないし、前国王は他界してるし。変な話題を振るな」
「悪い悪い。ちょっとした冗談じゃん」
今のご時世、王族の話題はかなりシビアだったりする。
王族が国王しかいないというところが、かなり危うい立場であるということだ。
レイフもちょっとまずいと思ったようで、冷や汗を掻きながら話を逸らす。
「ああ、試験ってどんなのかな」
そこでちょうどSクラス担当の教師が教室に入ってくることで、話は中断となった。
「着席しなさい。今日は専攻科目について説明していく。必要ならメモを取って忘れないように」
よく通る声で、今日一日の日程が伝えられていった。




