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「なんか最近疲れてる?シリウス」
机に突っ伏していると、隣に腰掛けてきたレイフが声をかけてくる。
少し顔を上げて覗き込んでみれば、レイフが心配そうな顔をしていた。
「少し……でも、今日までだから」
「今日までって……」
今日がデインの再試験、提出期限日。
隷属契約の縛りは多くなればなるほど、身体的疲労が蓄積される。
ただ、その縛りはこの日までと明言しているので、日付が変わった瞬間に解除されるようになっている。
2週間前の、ドレイクとザカリー教授の3人の時を思い出す。
ドレイクに頭をかき回された。
『無理すんなよ』
困った笑顔が胸を暖かくさせたのは、今でも鮮明に思い出せる。
デインとは、寮での朝の紅茶の時間以外は会っていない。
授業も席を離している。
縛りがあるからといって、試験中にいつも通り過ごすのは、憚られた。
デインからもそうするように提案されたので、そのまま受け入れている。
雨季は終わり、暑い時期が本格的に始まっていく。
太陽がじりじりと身を焦がしていくのを感じながら、授業開始まで、意識を手放した。
――――――
次の日の朝、朝食を終えて寮部屋に戻ると、デインが座って紅茶を飲んでいた。
「シリウス君、おはようございます」
「おはよう」
座って、デインの向かい側に置かれた紅茶を一口飲んだ。
「……」
暫く沈黙が続く。
先に口を開いたのはデインだった。
「……試験、合格しました」
声は落ち着いている。
顔はどこか穏やかだった。
「そう、おめでとう」
紅茶をまた一口飲んだ。
「……シリウス君、ありがとうございます」
「俺は、何も手伝ってないよ」
デインはその言葉に首を振った。
「違います。シリウス君が、僕を引っ張ってくれたから、今があるんです。だから」
デインが嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
―――ありがとう、お兄ちゃん。
重なる笑顔に、目を伏せた。
「……俺の方が、救われてる」
ぼそりと呟いた言葉は、デインには届かなかったようだ。
でも、それでいい。
デインが「おかえりなさい」と出迎えてくれた。
デインが「ここに居ていい」と居場所をくれた。
それだけで、もう、救われてる。
だからこれは、恩返しだ。
「ありがとう、デイン」
今度は聞こえたようで、デインは目を大きく開いたが、にっこりとほほ笑んだ。
「はい、シリウス君」
隣に並び立つ鷲が見えた気がした。




