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沈黙。
重たい。
息がしづらい。
大きな息遣いは、誰のものか。
「話は以上です」
冷淡に告げられた言葉に、デインが返事をしようと口を開きかけていた。
「……待ってください」
「まだ何かありますか?シリウス」
理不尽。
大人。
権力。
ならば―――
「俺も、デインと同じ処分にしてください」
「っ!」
「……っシリウス君!」
ザカリー教授とデインが驚愕する。
「本気ですか?君は退学処分で構わないということですか?」
先ほどまでの余裕な声ではない。
ザカリー教授は、焦っている。
それに頷いた。
「やめてください!シリウス君!」
デインが必死に叫んでいる。
「もう……いいんです。僕が、この学園に分不相応だったんです。……それにシリウス君まで巻き込まれる必要なんて……」
デインは膝をつく。
胸を抑えて必死に涙を堪えているが、声はもう泣いている。
拳を握る。
なんだそれは。
どうして諦めるんだ。
お前の人生だろうが。
「立て!!デイン・ブランフォード!!」
デインに目は向けてやらない。
驚いているザカリー教授を見続ける。
視界の端ではモプトンも驚愕していた。
「……っシ、リ……」
「お前はそれでいいのか!何でこの学園に来た?何がしたかった?デインはもう、満足したのか!」
デインが寝る間も惜しんで勉強をしていることを知っている。
魔力が少ないのに、枯渇寸前まで魔法の練習をしていることも知っている。
体力づくりや素振りを立てなくなるまでしていることも知っている。
どれだけ、苦汁をなめさせられようと、笑って吹き飛ばしてきたことを、知っている。
「デインは、この学園を、去りたいのか!」
「……そんなわけないじゃないですか。……そんなわけ、ないだろ!!」
デインの大きな声に拳を握る。
デインの涙でいっぱいになった顔を見た。
「なら、立ち続けろ、デイン」
目が合う。
歯を食いしばって、デインは、立ち上がった。
「……お願いします。……もう一度チャンスをいただけませんか」
デインは頭を下げる。
ザカリー教授は、眉を寄せている。
「それは……再試験がしたいということですか?」
「はい」
ザカリー教授は考え込む。
「友達が一緒に退学をするというのは心苦しいとは思いますが、再試験をしたところで結果は同じですよ」
「……っ」
デインは口ごもった。
ザカリー教授は、また『共同研究で提出するつもりかもしれない』から、結果が同じだと言っている。
ならば、それができなくすればいい。
「俺が、手出しできない状況であれば、いいんですよね」
ザカリー教授は目を細めてこちらをじっと見つめてくる。
「……そんな状況、作れるんですか?」
「はい」
思ったより、冷淡な声が出た。
デインが不安そうな顔を向けてくる。
服のボタンに手をかけた。
「俺は……隷属契約をされています」
「なっ……!」
ザカリー教授の驚愕の声を聞きながら、ボタンを外していく。
隣のデインとモプトンはいまいち理解できていないのか、言葉を発さない。
胸に刻まれた魔法陣を見せた。
「これ、錬金学科の教授なら分かりますよね?」
「……本物。誰と、どうして、いや、それよりもそれは重罪では……」
動揺するザカリー教授に、淡々と事実だけ述べた。
「私的に利用するのが重罪であって、公的に同意の上であれば、問題ありません。もちろん、国王陛下も了承済みです」
その言葉はかなり効いたようだ。
ザカリー教授は今度こそ言葉を失っている。
「契約者はドレイク・バルタザールです」
そこで、デインとモプトンも驚愕した。
流石に状況が飲み込めてきたようで、モプトンが口を開閉させている。
「ド、ドレイクって……あの、バルタザール騎士団の……」
デインは、心配そうに覗きこんでくる。
「……それって、大丈夫なの?」
「大丈夫」
デインに微笑めば、それ以上口を開かなかった。
ザカリー教授に向き直る。
「契約者に頼んで、『デインの研究に一切、助言や補助をしない』と縛れば、俺は手出しができなくなります。どうですか」
ザカリー教授は、歯を食いしばり、下を向いている。
身体が小刻みに震えていた。
「そ、そんなことを、バルタザール騎士団長が率先してやってくれるのですか……?」
悪あがきにしか聞こえず、冷めた目で見返した。
「不安なら、本人も呼んであなたの目の前で、縛ってもらいます」
「……」
沈黙。
息を大きく吸い込んだ。
「再試験……お願いできますか?」
「……分かりました」
ザカリー教授が項垂れる。
デインの顔が明るくなるのを見て、胸の奥にある張り詰めていたものが、わずかに緩んだ。




