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アウロニスの背中を捉えて、足が止まる。
言葉が出ない。
気づかなかった。
何故。
ついてくると勝手に思っていた?
あいつが?
歯を思いっきり食いしばる。
違う、今はなぜあいつが命令違反を起こしたかだ。
「……理由分かりますか」
同じく足を止めていた、アウロニスに気づいたリーダーに声をかける。
「いや、わからない。なんで逆方向に走っていったんだ……あいつ!」
その叫びを聞いた隊員が話に加わる。
「おい、アウロニス、あいつやばいぞ!」
切羽詰まった声に、顔を向ける。
「前線の方の取り残されて襲われてた騎士見習い、助けにいっちまった!!」
目を見開く。
そういうことか、あいつらしいことだ。
「くそ、だからって独断で動くかよ!今、団長に連絡して」
「俺がします」
返事を聞く前に、蒼く光る魔石のついたバングルに微量の魔力を流す。
「ドレイク団長聞こえますか」
声をかけると、その魔石付近からドレイクの声が返ってきた。
「どうした」
「前線に騎士見習いが取り残されてると思われ、それを確認したアウロニスが命令違反で前線へ戻りました」
「……そうか」
「責任は俺にあります。行かせてください」
周りが息を飲む気配を感じる。
ドレイクも数秒返答に時間があった。
「……勝算はあるのか」
「魔力細動を逆位相で干渉させます」
「詳しく」
「フォスフォレーラーが起こしている魔力細動とは真逆の振動を与えることで、振動を抑え、更に振動を与えて、錯乱させます」
「……できるか?」
「やります」
「……」
息を吐く音が響いた。
「頼んだぞ」
「はい」
通信を切り、一気に走る。
目標は前線。
目の前の来るフォスフォレーラーは切り結ぶ。
後ろから追いかけてくるフォスフォレーラーは、跳躍して上から刺す。
横から迫ってくるフォスフォレーラーは、剣で薙ぎ払った。
視界にフォスフォレーラーが数体集まっている箇所を捉えた。
一気に速度を上げる。
アウロニスに噛みつこうとしている個体をぶった切った。
「……っお前!」
声を聞き流し、近くに居た個体を斬っていく。
「……アニス、防御魔法くらい使えるよね?」
手を止めずに聞けば、同じく切り結んでいくアウロニスが答える。
「……っ!使える!どうすればいい」
こういう時は素直で思わず、口が緩んだ。
「アニスとその人、守って」
「……っお前は、どうすんだよ!」
「いいから早くしろ!!」
怒鳴ればあからさまにビクついている。
少し遅れてアウロニスの声が聞こえる。
「囲いを造れ 『バリー』」
魔力が魔素と反応し、アウロニスともう一人の騎士見習いを薄い膜で覆いつくす。
その時に二人の様子を確認した。
アウロニスは魔力細動の影響がなくなり、顔色がよくなっている。
倒れている騎士見習いの方は毒がだいぶ回っている。
時間はかけていられなかった。
近場に居たフォスフォレーラーを屠り、魔力感知で近場にアウロニスたち以外は居ないことを確認。
目を瞑った。
内側の魔力を意識する。
フォスフォレーラーたちから感じる魔力の振動を読み取り、逆位相を意識して魔力を薄く広げていく。
魔力の振動がなくなり、静かな気配が鼓膜を刺激する。
冷や汗が流れる。
魔力が足りるか。
やるしかない。
「……っ」
息が詰まるのを感じながら、更に魔力を流し込んだ。
すると、フォスフォレーラーたちが散り散りに遠ざかっていく。
「……っはあ」
目を開けて息を吐き出した。
フラフラする。
頭を押さえて、なんとか立ち続ける。
「シリウス!!」
心配そうなその声も今は脳を刺激する異物でしかない。
頭痛が酷いが、離脱するにはまだ早い。
アレを見つけ出してやる。
フォスフォレーラーたちの魔力を辿る。
いた。
確かに明らかに魔力量が突出して大きい物体が居る。
人ではない、フォスフォレーラーの変異個体。
ソイツと目が合った。
短剣を取り出し構える。
届くかどうかはわからない。
いや、届かせる。
目を見開き、思いっきり投げた。
バシュッ
勢いのまま、膝をつく。
視界が霞んで心臓が早く動く。
呼吸を繰り返し無理やり足に力を入れて立ち上がった。
ぶれる視界の中でアウロニスたちを捉える。
「……アニスっ、その人背負って、行くよ」
「……大丈夫か?……シリウス」
その声は無視して歩き出す。
森林の入口までは距離がある。
喋る体力も惜しい。
騎士見習いを背負ってついてくるアウロニスを後ろで感じながら、息を整える。
頭は痛みを訴える。
魔力枯渇寸前だった。
入口までが遠い。
無言のまま歩き続けるその足を止めるものは、誰もいなかった。




