28
2日目はもう少し進んだ先で戦闘が開始した。
昨夜の疲れも感じさせないほど、最初の士気は高かった。
しかし、数刻も過ぎると、疲れが戦いに滲み始めてくる。
「後ろっ」
「ありがとう!」
そんな会話も班員の中で増えてきた。
アウロニスも同様だった。
「はあっ!」
声を出し疲れを振り払うように、剣を振り下ろす。
だが後ろから近づくフォスフォレーラーには気づいていない。
攻撃的じゃない個体だからゆっくり近づいているが、油断は怪我の元だ。
目の前のフォスフォレーラーを切り伏せ、アウロニスの方に走る。
それに気づいたようだったが、目線を合わせずにアウロニスの後ろの個体を斜めに切り落とす。
「もう少し、魔力感知に意識して」
「っ!わかってる!」
「……少し休憩してきたら?」
「まだやれる!」
アウロニスは柄を強く握りしめて、フォスフォレーラーに向かって走り出してしまった。
どこに行っても負けず嫌いが顔を出すらしい。
アウロニスの今後の課題はそこだろう。
深く息を吐き切る。
ドレイクに伝えておこう。
そして昨夜の嫌な予感は的中する。
「うわあ!!」
全体に士気が下がってきたところで、大きな声は森中に響き渡った。
全員がそちらに向くと、騎士見習いの一人がフォスフォレーラーに襲われている。
ドレイクが咄嗟に駆け寄り、フォスフォレーラーを叩き切る。
その時、一瞬顔が歪んだ。
「大丈夫か!嚙まれたか……解毒薬、持ってるな?下がってそれを飲め。そこの騎士見習い、一緒についててやってくれ」
「はいっ」
その様子を眺めていると、ドレイクと目が合う。
お互いに頷きあった。
「全員聞け!」
大きな声が木霊する。
全員の視線が集中した。
「特異なフォスフォレーラーが紛れ込んでいる!攻撃的で、静魔帯は効かない!気づいたら、無理せず後退すること!いいな!?」
「「「はい!」」」
先ほどよりも全体の緊張が高まった。
動きもどこか鈍化している。
ところどころでは、驚きの声が聞こえ、後退していく姿も増えてきた。
朝日が救いを差し伸べる。
フォスフォレーラーが地中に埋まっていくのを、騎士団員たちはただ静かに見送った。
帰りの行軍、全体の士気は低い。
個々に食事を済ませ、それぞれが部屋へと帰っていく。
アウロニスの斜め後ろを歩いていると、声がかけられた。
ドレイクだ。
「お疲れ」
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です」
「アウロニス、今日は二日目だがよく動けていた。今日の夜も頑張るために部屋でゆっくり休め」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに顔を綻ばせているアウロニスは、少し元気を取り戻したようだ。
ドレイクの視線がこちらを向く。
「アウロニス、シリウスを少し借りるな」
「え?あ、はい……」
「シリウス、ちと話したいことがある」
「分かりました」
アウロニスの視線を背中で受け止めながら、ドレイクの後をついていく。
通されたのは作戦会議用に設けられた領主邸の一室だった。
エドマンドもいる。
「数増えてたな」
「うん、結構、後退していく子も多かった」
重苦しい空気の中、2人の会話を耳に入れる。
「対処、どうしようね」
「戦線離脱もありだが……」
ドレイクは難しい顔をする。
「何の収穫もなしに、は、認めてもらえないだろうね」
それは国王陛下からの命だからだ。
安易に離脱して、逆鱗に触れたら、被害は騎士団長だけに留まらないだろう。
ドレイクが珍しく重たい溜息を吐いている。
「明日の進み具合で離脱かどうか考えるか」
「それが妥当かと」
「さてと、シリウス」
「はい」
呼ばれてドレイクを見れば、鋭い視線が射抜く。
「今回、被害があれだけで済んだのはお前の報告があったからだ。まずはお礼を言う。ありがとう」
「いえ」
「その上で、シリウスの見解が聞きたい。あの特異体、どう見る?」
視線を下げて思い出すのは、行動だけが違うフォスフォレーラーだ。
「攻撃的で素早い動きの突貫は慣れないと厄介だと思います。それからドレイク騎士団長も感じ取っていたと思いますが、かなり魔力波長が強いです。共振してしまうと、まともに立っていられないと思います」
ドレイクは、助けに駆け寄った時のことを思い出したのか、大きく頷いていた。
「あれは結構しんどかった」
「波長の振幅が強く、更に変化もさせてくるから普通のフォスフォレーラーよりも効き目は抜群ってことだね」
「はい」
エドマンドも頭を抱えている。
「そして、見た目は他のフォスフォレーラーと変わらないと。やはり違和感があるな」
ドレイクからの視線を受け取り、頷く。
「こういう特異点になる個体は基本的に、見た目も進化してしまうことの方が多いと本で読んだことがあります」
魔物大全というものを、騎士見習いになったばかりの時に読み漁った記憶を掘り起こす。
それが導き出す答えは。
「たぶん、変異個体が潜んでいます」
「俺も同じ意見だ」
エドマンドが難しい顔をしながら追随する。
「その変異個体が、周囲のフォスフォレーラーに影響を与えてるってこと?」
「たぶんな」
指揮系統タイプのフォスフォレーラーということだ。
それが1体ならいい。
「対策は、どうする?」
「とりあえず、班を複数くっつけてお互いに周囲を警戒するほかないな」
「もしもの時は、シリウス、頼んでいいか?」
ドレイクを見やれば、少し眉を下げている。
魔力波長を自力で操作できる人間など限られているのだから、頼むのは普通のことなのだが。
つくづくお人よしだ。
「はい」
「ありがとう」
騎士団の揺れは確実に大きくなっていく。




