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フォスフォレーラーの特徴として目立つのは、羽の部分の『目』のような模様だ。
あれを夜に見ると、魔物と戦い慣れた人間でも、足が竦む時がある。
初陣の学生ならば、一歩後ろに下がってしまうのもしょうがないだろう。
「いくぞ!」
リーダーが先頭を切り走り出す。
目の前の大量の瞳に臆さず走り出すリーダーに、やっとアウロニスも気合が入ったのか、後に続いた。
昨年の個体数は、2000体を超えていた。
今年は時期が早いため、もしかしたら数は更に増えているかもしれない。
人に対して攻撃的じゃないところだけが救いだ。
目の前の顔より高い位置に横切ろうとしたフォスフォレーラーを斜め上に斬り伏せる。
一歩踏み出し、その奥にいたもう一体を縦に斬った。
何度もそれを繰り返しながら、班の様子を確認する。
8人編成の班でそれぞれが近すぎず、遠すぎずの間合いを意識して戦えていた。
アウロニスも案外落ち着いて、一体一体を丁寧に処理している。
試合の時も思ったが、感情を前に出しながら、体はしっかり制御して戦えるというのは一つの美点だろう。
本人には言ってやらないが。
彼を視界の端に留めつつ、討伐に専念する。
魔力の微妙な揺れは静魔帯により微小で済んでいるが、全く影響がないわけじゃない。
自身の魔力の揺れを魔力操作で軽く調整しながら、進んでいく。
「たまに、休憩してね」
「はいっ」
リーダーがアウロニスに声をかけていた。
アウロニスの声は最初より少し覇気がなくなっているが、まだ余力はありそうだ。
何十体目かの個体を切り結んだところで、朝日の匂いがした。
夜明けが近い。
まだ、班員たちの士気は高いまま、1日目が終わると思った、その時だった。
強い魔力の揺れが体を襲った。
咄嗟に魔力操作で位相をずらす。
一体のフォスフォレーラーがこちらに猛突進してきていた。
速いが魔力で動きは確認できる。
考えるより先に剣を縦に振り下ろした。
真っ二つに斬り分かれていくフォスフォレーラーを確認し、それと同時に魔力の揺れも治まっている。
ゴクリと喉を鳴らした。
この個体、明らかに、攻撃的だった。
それに魔力細動の起こし方が、他のフォスフォレーラーと違っていた。
嫌な予感がする。
羽の瞳と目が合ったような気がした。
朝日が差し込み、フォスフォレーラーたちは地中へと身を潜めていく。
1日目は微かな闇を残して終了した。
――――――
1日目ということで、騎士団は領主の歓迎の席に呼ばれ、簡易的な立食パーティーが行われた。
まだ明確な疲れが出てないため、全員のテンションは高い。
アウロニスもそれは変わらない。
「良い動きをしていたじゃないか。これは期待の星だぞ」
「ありがとうございます!」
飲み物を片手にリーダーと喋っている。
壁に寄りかかりながらその様子を眺めていると、前からドレイクとエドマンドが歩いてきた。
姿勢を正す。
「お疲れ様です」
「お疲れ、シリウス。アウロニスだが、初日にしてはかなり動けていたな。あれだけ動けていれば、他の討伐任務とかに連れてってもよさそうだな」
アウロニスを見ながら、グラスを傾けている。
「本人に言ったらどうですか?」
「それは最終日に。気を抜かれちゃ困るんでな」
肩を竦めているドレイクの横で、エドマンドが苦笑をしていた。
「結構行軍前、はしゃいでたでしょ?だから、心配してたみたいなんだ。でも思ったより、落ち着いて戦闘に入っていたから、僕も少しびっくりしてる」
アウロニスに対して、この二人の評価は高いようだ。
ドレイクが今度はこちらに視線を向ける。
「シリウスはどうだ、1日目は」
「可もなく不可もなく、です」
「なんだそりゃ」
ゲラゲラと笑うドレイクに一歩近づいた。
声を少し顰める。
「ただ気がかりが一つだけあります」
気づいてドレイクも真剣な眼差しになった。
「どうした」
「1体だけ、明らかに他とは違う動きをしていたフォスフォレーラーが居ました」
「なに?」
ドレイクは眉を上げている。
エドマンドも目を細めた。
「一直線に攻撃を仕掛けてきました。それから静魔帯をつけていたのに、魔力の揺れが激しくなりました」
ドレイクとエドマンドは押し黙る。
先に口を開いたのはドレイクだった。
「1体だけか?」
「はい」
「シリウスはどう見る」
言われて、目を細める。
1体だけならいいが。
「何とも言えません。ただ、もしこれが増えてくるようなら、戦線崩壊もあり得るかと思っています」
「……分かった。気を付けて観ておこう。報告助かった」
ドレイクとエドマンドは話し合いをしながら去っていく。
煌びやかな装飾の窓から、朝日に包まれる空が見えた。
一口グラスを煽り、息を吐き、昨夜の疲れを吐き出す。
グラスの中の液体が、微かに揺れていた。




