26
ジョエル森林付近のセルバ村に到着したのは、お昼前だった。
大きな問題もなく、団長がその土地の領主であるソルティーヤ男爵に一言挨拶を終えて、出発までの夕方までは宿で休むことになった。
部屋の割り振りは、団長がしている。
「何で、シリウスと一緒なんだ……」
「嫌なら外で寝たら」
「くそっ」
悪態を吐きながらどっかりとベッドに座り込む。
戦闘のために剣を手入れするらしい、慣れた手つきで手ぬぐいで拭き始めた。
「寝た方がいいと思うけど」
「寝れるかよ、こんなに滾ってんのに」
体力が最後まで持つか心配だが、いくら言ったところで聞かない男だ。
どうせ今日の討伐が終わったら嫌でも理由を理解するだろう。
アウロニスに背を向けて、仮眠を取った。
夕方、早めの夕食を終えて集合場所であるジョエル森林前へと向かう。
全員が揃うと、先頭に立つドレイクが大きな声を張り上げた。
「整列!」
姿勢も空気も張り詰める。
「今回の討伐は長期的なものになる、体力の調整は自分たちで行うこと。その上で無理はしない、危険があれば報告、逃げるのも一つの作戦だということを忘れるな。協力することが大事だということを念頭に全力で行くぞ。最後に」
一拍、大きく息を吸い込んだ。
「この討伐が終わったら、バーベキューだ!!」
「「「おおおお!!」」」
変な気合の入れ方だが、慣れれば流せる。
全員の士気が上がったところで、あらかじめ決められていた班に分かれて点呼をし、時間を惜しむように早々と出発した。
この班は、リーダーがバルタザール騎士団の5番手と言われている男で、騎士見習いがシリウスとアウロニスの2人編成されていた。
「アウロニス・エレンディル。初の討伐だって聞いた。無理せず、着実にいこう」
「はいっ!」
行軍中にアウロニスに声をかけて、緊張を和らげている。
良いリーダーだ。
すると、今度はススッとこちらにやってきた。
「シリウス、団長から聞いたよ。友達なんだって?」
「違います」
曲解された事実に眉を寄せる。
リーダーは小さく笑い、前に視線を移した。
「今回のこの作戦に初陣は結構いいよ。人もたくさんいるし、魔物も強すぎない。そこそこ成果もあげれるけど、持久力という面でまだ課題があることも分かってもらえる。これを見越してたんなら、すごいよ」
「俺じゃないですよ、推薦は」
「そうだったね、団長の推薦だっけ。まあ、どちらにしろ、アウロニスの面倒はシリウスに見てもらえばいいって言ってたから。君の実力なら安心できる、頼んだよ」
にっこり、反論させない笑顔の圧に、ついっと目を逸らす。
はい、とだけ返事をした。
リーダーがまた先頭に走っていく。
他の隊員と喋っているアウロニスの後ろ姿を見ながら、意識は周囲の魔力に集中させる。
もうすぐ、夜がやってくる。
ボコッ。
その音と共に、地中から燐光が顔を出した。
十数分歩いた行軍中だった。
周囲の魔力波長が微かに揺らぎ始めている。
アウロニスはもちろんのこと、リーダーも気づいていない。
しかし、やはりドレイクは気づいたようだった。
「戦闘準備」
ドレイクの声は静かだが確実に全員に届いた。
弛緩していた空気が一気に締まる。
班ごとに大きく広がった。
手に持つ魔武器と腰に下げた短剣を確認。
柄を握って、下に構える。
身体の筋肉の力を抜き、リラックスした態勢をとった。
いつでも飛び出せる。
静寂の帳の中、魔力の揺れが大きくなっていく。
それと共にボコッと土が盛り上がる音が鼓膜を刺激した。
「くるぞ!」
そしてそれらは地中から一気に顔を出した。
フォスフォレーラーだ。
長い戦闘の始まりだった。




