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ドレイクの部屋は整然としていた。


暫く前の積みあがっていた書類は姿が消え、今は落ち着きを取り戻したことが分かる。


「悪いな、仕事前に来てもらって」


「いえ」


座りながら出迎えたドレイクは、稽古でもした後なのだろうか、少し汗の匂いがする。


「なんか飲むか?」


「結構です」


ドレイクはしょうがないなという顔で肩を竦めた。


「そういえば、この間の決闘、どうだったんだ?」


明らかな本題ではない話題に、怪訝に眉を寄せた。


「それは何が聞きたいんですか?勝敗ですか?」


「違う違う。どうせお前が勝ったのは分かるんだから聞くわけないだろう?なんだ、機嫌悪いのか?」


1年以上も一緒に居れば、多少なりとも感情は読まれてしまうらしい。


片眉を上げているドレイクの顔から、視線を逸らした。


「何があったか知らんが、まあいい。聞きたいのは、ウォルターの実力はどうだったんだってことだ」


目を細めてドレイクを見る。


決闘のことをゆっくり思い出していった。


「まだ学生の域を出ない剣術でしたが、魔法を使って翻弄する戦術と、陣を形成する速度は光るものがあったと思います。たぶん、統率を担う指揮官向きです」


「なるほど、かなり評価が高いな。これは将来、俺の騎士団に入れる方向で考えても問題なさそうだ」


満足そうに放つ言葉を聞きながら、一緒に数刻前のことを思い出した。


ポロリと溢してしまったのは、たぶん自分で判断できる範疇を超えていたから。


「先ほど、そのレオンティウスから、パーティーの招待を受けました」


「は?パーティー?」


「はい、父親が俺に会いたいそうです」


ドレイクは納得したように頷いた。


「だから、機嫌が悪かったのか」


「……」


「睨むなよ。まあ、お前にとっちゃ、気分の良い話ではないわな」


ドレイクはこちらを見てニヤリと笑みを浮かべた。


「でも、良い機会だ。行ってこい」


「……理由は?」


対抗心から尋ねれば、ドレイクは自信満々に口を開く。


「ヴァレリアンはな、確かに厳格な男で貴族の中の貴族。王室ではなくて、王国に忠誠を誓う男だ。だがな……」


一拍置いて、ずいっと身を乗り出す。


「あいつは根っからの親バカだ。軍務卿という立場を最大限に生かしてな、俺に息子のアピールばっかりしてくるもんだから、堪ったもんじゃない」


ウォルターのことを聞いたのはそういう理由かと納得する。


「だから、シリウスが考えるような悪い大人じゃないことは俺が保証してやる。一度話すとお前の世界も広がるだろう」


ウォルターの申し訳なさそうな顔が脳裏を過り、渋々頷いた。


「……分かりました」


ドレイクは、話を切り替えるため膝をパチンと叩く。


「さて、ここからが本題だが。去年のフォスフォレーラーの討伐は覚えているか?」


フォスフォレーラーとは、羽化型の蛾のような魔物のことだ。


人の顔ほどの大きさで殺傷能力はなく、個体自体は強くないが、数が多くなると、危険度が増す。


去年、大量発生の討伐任務に人手不足として、バルタザール騎士団に同行した。


「その魔物だが、今年は早く出てきたらしい。もう被害報告があった」


ドレイクは机に置いてあった一枚の紙を、ひらひらと揺らす。


「場所はジョエル森林。王都に流れてくる前に討伐せよとのお達しだ」


「分かりました。いつですか」


「一週間後に出発する。学校側には俺から伝えておこう。いつ終わるか分からないからな」


前回は5日はかかった。


今年も同じ計算で準備が必要だろうと考えて、ふと思い浮かんだのは、勝気なあの男だった。


「……それって、騎士見習い、他にも参加しますか?」


ドレイクは目を見開き、じっと見てくる。


「お前がそんなことを気にするとは、本当に学園の影響は目を見張るな……」


「……それで、どうなんですか」


眉を寄せて、話を逸らす。


「するよ、今年は更に人員補充のために15名ほど連れて行こうと思ってる。一人はシリウスな」


それを聞いて、目を伏せる。


聞くか、聞かないか。


「なんだ、嫌いな奴でも居るか?」


「違います」


「じゃあなんだ。迷うくらいなら、言え」


強引なのは相変わらずだ。


「……アウロニス・エレンディルは、名簿に居ますか」


「アウロニス・エレンディル……?もしかして、同じ学園に通ってる貴族の子か?」


「はい」


ドレイクは書類の中から紙を取り出し、確認する。


「いや、居ないな。なんでだ?もしかして、連れていきたいのか?」


言われて、少し考える。


連れていきたいわけではない。


「……実力はあると思っています」


逡巡して口を開くと、ドレイクは目をパチパチとさせて次の瞬間には、嫌な笑みを浮かべた。


やはり言うべきではなかった。


「なんだ、結構高く評価してるじゃないか。友達か?」


「違います」


「そうかそうか」


「……」


もう何を言っても駄目だと、口を開くのはやめた。


「うん、若干10歳にして合格。騎士見習いを長く続けられる忍耐力と、重たくて速い剣術には伸びしろがある。しかし」


一呼吸入れた。


「何せ、侯爵家の息子だ。実力不足で死地に連れて行って事故にでもあっちゃ大事だからな。慎重にならざるを得ない」


それに、と続けるドレイクは細めた目を向けてくる。


「俺はまだ、この部隊に編制するには早いと思っている。でも、シリウスは違うんだな?俺の記憶は結構前だ。そう思った理由を聞こうじゃないか」


大きく溜息を吐いた。


ドレイクは何となく嬉しそうだ。


「少し前に木刀で打ち合いをしました」


「ほお、許可を取りに来た、騎士科試験か?」


「はい、それで行けるんじゃないかと思っただけです」


無理ならいいです、と言外に伝えたが、ドレイクは尚も質問してくる。


「行けると思った根拠は?」


「……何となくです」


「こ・ん・きょ・は!」


「……」


うるさい。


「ウォルターの時と違って、腹が立ってたんで、かなり思いっきりやりました」


「それで?」


「俺に一発当てました」


「本当か!?」


身を乗り出したドレイクは、大笑いしている。


「そりゃあいい。なかなか見込みがあるな。よし、採用だ。一度俺の目でも確認したいからな。で、シリウスと同じ部隊に配属っと」


聞き捨てならない言葉が聞こえ、ドレイクのメモしようとしている手を止める。


「待ってください」


「どうした?」


「何で同じ部隊なんですか」


「言い出しっぺだろ?世話をするのは当然だ」


「はあ?」


「おい、素が出てるぞ」


言葉を飲み込んで、ドレイクを睨む。


「撤回します。連れてかなくていいです」


「ダメだ。もう決めた。頼んだぞ~シリウス」


手を振り払われて、動き出すペンを見ながら、大きく溜息を吐いた。


言わなきゃよかった。


一週間後の討伐任務が憂鬱に変わった瞬間だった。



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