23
授業が終わり、教室の賑やかさが帰ってくる。
夕日が生徒たちを歓迎するように、窓から差し込んでいた。
シリウスも片づけをして、今日の予定を思い出す。
東側、巡回任務。
その前にドレイクに顔を出すように言われているので、ドレイクの部屋に顔を出す。
「また明日な、シリウス」
「また明日」
レイフに挨拶をして、教室を出る。
「シリウス」
静かで強かな声に振り向けば、ウォルターが居た。
珍しい人物に、目を見開く。
「どうした?」
ゆっくりと近づいてくるが、手の届かない距離のところで立ち止まった。
「少し話があるんだが、今いいか?」
声に強張りはない。
頷けば、ウォルターはガシガシと頭を掻いた。
「まあ、なんだ、本題の前に、一つ謝罪させてくれ」
謝罪、思い当たる節がなく眉を寄せる。
「なんのこと?」
「フェンリスのことだ」
フェンリス、フェンリス・ハルドールといえば、最近寮部屋で勉強をするために訪れている騒がしいあの男しか浮かばない。
初日以来、たまに会うが、軽く言葉を交わす程度で、勉強会にはあまり混ざりにいかなかった。
ただ、ライラにはたまに質問をされる。
その内容はどんどん洗練されているので、試験突破は概ね問題ないだろう。
「Eクラスのフェンリスであってる?」
「そうだ、ソイツだ」
ソイツと読んだ時の歪んだ顔は、たまに周囲の生徒に注意するときのウォルターだった。
「実は、フェンリスは私の同室者でな。最近帰りが遅いので問い詰めたんだ。そしたら、試験勉強のために君の部屋に訪れていると言っていた。事実か?」
デインが『お堅い方』と言っていたことに納得がいった。
「事実だよ。もう1週間経つんじゃない?」
それを聞いたウォルターが勢いよく頭を下げた。
「すまない!まさかシリウスに迷惑をかけているとは思わず、放置をしてしまった」
あまりの勢いに一歩下がる。
「いいよ、別に。俺は仕事で部屋に居ないことの方が多いから」
「そういう問題ではない。体裁の問題だ。そういう個人的なことは、試験を受ける当事者の部屋でやるべきだ」
言われて、腑に落ちる。
ウォルターは、『教養試験を受けない生徒』の部屋で勉強していることが問題だと言っているのだ。
「もう終わりだし、良いんじゃない?」
「本当にすまない。次からは私たちの部屋でさせる」
『次』と口に出したということは、ウォルターもフェンリスの現状を把握したのだろう。
フェンリスも、貴族の端くれだ。
2人で行われるであろう、厳しい勉強会を想像して哀れに感じるが、同時にデインの負担が減るのであれば越したことはない。
「それで、本題って?」
続きを促せば、ウォルターは真摯に目を向けてきた。
「実は、私の父上が君に会いたいと言っているんだ」
「父上?」
ウォルター・レオンティウスの父といえば、現レオンティウス侯爵のヴァレリアン・レオンティウスだ。
王国に強い忠誠心を持ち、その信頼は重要な役職を任されるほどだと聞いたことがある。
「先日の決闘の件を、事後報告したんだ。義務だから分かってほしいが」
申し訳なさそうに窺う視線を寄こす。
少し嫌そうな表情をしていただろうか。
「それで?」
「もちろん、君の技術は一切話していないし、私から強く頼み込んだことは伝えたんだ。……伝えた上で、君に会ってみたいと言っている」
弁解を聞き流し、目を伏せる。
「なんで?」
「君に直接、聞きたいことがあるそうだ」
溜息が漏れる。
「乗り気……ではなさそうだな」
「そういうのは性に合わない」
「そうだろうな」
眉を寄せて考え込む姿を見る。
ウォルターの父親なのだから悪い人ではないだろうが、思い出すのは『大人』という理不尽の塊ばかりだ。
「すぐに答えが欲しいわけではない。少し先の話だが、私たちの屋敷でパーティーが開かれることになっている。もし、良かったらその時に来てほしい。もちろん断っても構わない。君に判断は任せるよ」
「……」
返事もできずに、去っていくウォルターの背を眺める。
重たい約束が足を縫い付けた。




