22
紅茶から燻る湯気は、空気に溶け込んでいく。
「試験はいつ?」
「あと、1週間と2日です」
デインからの回答に、さらに質問をした。
「順調?」
苦笑を漏らし、ちらりとフェンリスを見た。
「微妙です。主にフェンリスが」
「うっ……」
呼ばれた主は肩をビクつかせて冷や汗を流している。
下からフェンリスを覗き込んでみると、上を向いて目を瞑ってしまう。
「何が通過できなかったの?」
逡巡し、フェンリスは口を開いた。
「軍事基礎以外全部です」
「は?」
意識する前に、声が漏れる。
少し強めになってしまったことに、多少ばつが悪くなりデインに顔を向けた。
「本当?」
「本当です」
無理がある。
額に手を当てて項垂れた。
一瞬、チリリと肌を刺激する空気の振動を感知して、向かいの席に目を向ける。
ライラはまだ俯いたままで、イマラは苦笑していた。
「私も人のことを言えませんが、入学試験をどうやって突破したのかは気になります。どうなの?フェンリス」
ポリポリと頬を掻き、視線を彷徨わせながら口を開いた。
「雇った家庭教師のヤマが面白いほど当たったんだよ。あとは実技」
つまり、殆ど運だよりで入学したということだ。
「でも、今回は歴史と地政はいけそうなんですよね」
デインの助け舟に飛び乗る勢いでフェンリスが顔を明るくさせる。
「そう!デインが教えてくれたおかげだな」
何の解決にもなっていないが、本人が良いなら口出しをするつもりはない。
「私も歴史と地政を落としていましたが、デインのおかげで、今回は突破ができそうです」
イマラも終わりの兆しが見えて嬉しいのか、顔を綻ばせていた。
イマラがライラの方を向く。
「ただ、ライラの軍事基礎がなかなか進まなかったんですよね」
話を振られたライラは、ようやくゆっくりと顔を上げた。
複雑そうな顔をしている。
「……はい。でも、先ほどの解説で、納得ができました」
「そう」
ライラは紅茶を手に取り、ゴクリと喉を鳴らしながら飲み下す。
「……また、教えてくださいますか」
自分なりの折り合いをつけることができたのだろうか。
ライラの内気な瞳から微かに強い意志を感じて、目を逸らした。
「時間があったら」
「ありがとう、ございます」
暫くの沈黙後に、デインが口火を切る。
「それでは、勉強を再開しましょうか」
デインがこちらを向いた。
「シリウス君はどうしますか?」
デインのレンズの向こうの瞳は、心の内を見透かされているように感じる。
一口分残っていた紅茶を飲み干し、カップを持って立ち上がる。
「ごちそうさま」
「はい。おやすみなさい」
「ほどほどに」
ティーカップを自分で片づけて、自室に入っていった。
――――――――
その日の夜中、デインが寝静まったタイミングで、自室の扉を開く。
電気をつけず暗がりをソファに向かって、ゆっくり歩いていった。
目を瞑り、感覚を研ぎ澄ます。
生活の中で排出されている量とは、明らかに違う魔力残滓が漂っている。
誰のものか不明だが、この部屋に入ってきたのは、あの3人だけだ。
デインと3人が楽しく雑談を交えながら、勉強をしている風景を思い出す。
「友達……か」
温い空気を吸い込む。
夜の静けさは、微かな不穏と共に、ゆっくりと歩み寄ってきていた。




