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寮部屋までの道のりは、時間も相まっていつもより騒々しい。
自分の部屋に到着して、ガチャリと扉を開けると、「えっ」という声が聞こえた。
そのまま上がっていけば、バタバタという慌ただしい様子と、「うそ、早くない?」「大丈夫なのか!?」そんな話し声も聞こえる。
まだ勉強会の最中だったらしい。
今日で2日目だろうか。
そしてひょっこりと顔を出したのは、デインだった。
「お帰りなさい、早かったですね」
本人はそんなに慌てていないようで、表情には純粋な驚きが現れている。
「邪魔して悪い」
横目に謝れば、くすりとデインが笑った。
「ここはシリウス君の部屋でもあるんですから、謝る必要はないですよ。むしろまだかかりそうで迷惑をかけます」
穏やかに笑みを浮かべるデインを見る。
「わかった」
思ったよりも気が張り詰めていたらしい。
息継ぎをして、足を踏み出した。
「体、流してくる」
「はい」
シャワー室へ行くには、勉強をしている部屋を通り抜けなければならないので、中に入っていくデインに続いた。
「は、初めまして!」
部屋に入ると、迎えたのは綺麗に整列した男女だった。
声を張り上げて挨拶したのは、しっかりした体躯を持つ大柄な男だった。
ドレイクと比べても遜色なさそうなほど、よく鍛えられている。
「フェンリス・ハルドールですっ!」
黄土色の短髪に、黄金の瞳。
ハルドールといえば、男爵家なので、貴族感がないのは納得するが、いささか勢いが強い気がする。
「お初にお目にかかります。イマラ・アダルバートと申します。この度はご迷惑をおかけします」
貴族の礼を流麗に見せたのは、緑色の髪をまとめ上げ、エメラルドのような翠眼の少女だった。
侯爵家の令嬢らしい所作だが、瞳は少し勝気そうでアンバランスさが滲み出ている。
そしてその隣の少女は、おどおどしながらもゆっくりと口を開いた。
「あの、ライラ・セラフィエム、です。よろしくお願いします」
ぎゅっと裾を掴んで下を向きながら話す姿は、珍しい黒髪黒目に重なり、かなり内気そうに感じた。
セラフィエムも男爵家だ。
「みんな、騎士見習いと話す機会なんてそうないですから、緊張しているみたいで」
呆れ気味に口を開いたデインの言葉で、若干の崇拝があることが分かった。
特にフェンリスが。
「そこまで珍しくもないだろう」
「そんなことないです!尊敬してます!俺も騎士見習いになれるように頑張ります!」
勢いの強いフェンリスに、流石に圧倒されて一歩下がる。
ちょっと居心地が悪い。
「……そう。シャワー浴びたいから、退いてもらっていい?」
「はいっ」
どうぞ、と横に避けるフェンリスは、会ったこともないタイプの人間だ。
通り抜けざまに、「ゆっくりどーぞ」と声を出すと、フェンリスは嬉しそうに顔を上げていた。
「ありがとうございます!」
うるさい。
シャワー室へと入って一息ついた。
ドア越しでも分かるほど、騒がしくしている声が聞こえる。
汚れた騎士見習いの服を脱ぎ、温かいシャワーを頭から浴びた。




