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「教養科目の再試験?」
「はい、その勉強会です」
朝、いつものランニングを終え、朝食を取り、迎えてくれたデインに相談があると持ち掛けられた。
なんでも、この寮部屋で勉強会がしたいらしい。
湯気の立ち込める紅茶を一口含み、デインを見る。
眉根を寄せて、申し訳なさそうに苦笑を浮かべているその姿は、やはり公爵家の子息には見えない。
「実は、僕の友達がまだ教養試験を突破できずに、3回目の再試験が残り2週間を切ってしまいまして」
3回目ということは、2か月は他の生徒よりも出遅れていることになる。
本人たちも焦っているのかもしれない。
「そう、放課後?」
「はい。3人居るのですが、うち二人は女性でして。残りの1人は同室者がお堅い方だから厳しいと。こんなこと、シリウス君に頼んで申し訳ありません。」
座りながら、デインは頭を下げる。
この学園に自習するスペースは決して多くない。
集まって教えあうのであれば、寮部屋が適当なのだろう。
「いいよ」
パッと顔が上がる。
「本当ですか?」
眼鏡の奥の瞳には期待が見えた。
「どうせ、騎士見習いの仕事で居ないことの方が多いから、好きにしていいよ」
「ありがとうございます」
やっと緊張の糸がほどけたのか、口元がだらしなく緩んでいた。
「じゃあ、今日から使わせてもらいます」
もう一度頭を下げて出ていく上背を眺める。
平民に対しての態度とは思えない。
デインらしい。
ただ、悪い気もしなくて、表情が移ってしまうのはしょうがないだろう。
――――――――――
今回の巡回任務は比較的早く終わった。
「お疲れ、シリウス。今日はもう上がっていいぞ」
巡回班のリーダーが個別に声をかけてくる。
「でも、片づけとかはいいんですか?」
普段であれば、任務の後の後片付けをするのは、入って間もない騎士見習いの仕事だ。
1年はまだ新人の領域だった。
「いっつも率先してやってくれてるし、この間新しい見習いがまた入ってきたからな。人手は足りてる。学生だろう?帰って休め」
気さくに捲し立てる気前の良い笑顔のリーダーの後ろには、楽しそうにお喋りに花を咲かせている騎士見習いの面々が見える。
その中には、アウロニスの姿もあった。
「そう、ですか」
つと、目を伏せて、わかりましたとだけ返した。
満足したのか、リーダーは喧騒の中に混ざっていく。
「おい、アウロニスはしっかり働いてけよ!」
「何でですか!俺の方が先輩じゃないですか!」
「そういうところだよ!」
アウロニスは叫んでいるが、嫌そうではない。
途端に目が合いそうになって、先に逸らした。
踵を返して帰路につく。
空を見上げると、点々と星が覗いていた。
意味もなく、息を吐き出す。
身体を蝕む暖気は、徐々に空気をじっとりさせていった。




