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ケイリア視点でお送りします。
朝、静けさに目を覚ました。
寒さは減り、夜明け前でありながら、温度は快適の一言に尽きる。
ベッドの上で伸びをして、カーテンに手をかけた。
ここの部屋からは、学園の立派な門が鎮座しているのがよく見える。
暗がりの中、街灯が照らし出すのは、朝のランニングを習慣にしている、眼帯のあの人。
最近は隣に紺色の髪のクラスメイトも一緒に走っていることが多い。
走る準備をしている二人を少しだけ眺めて、カーテンを閉めた。
湯舟を溜めて、お湯に体を預ける。
香油はスズランの香り。
シャワーで髪を流しながら、考えるのは、シリウスのことだった。
初めて意識したのはいつだったか。
Sクラスの教室で、朝日を浴びながら、窓際の席で読書をしている姿を見たことがある。
新月の空のような髪に、光に照らされて強く光り輝く蒼色の瞳、それを守るように長く伸びたまつ毛。
その時、世界がその人のためにあるような気にさせるほど、美しく、輝いていた。
シリウスに気づかれるまで、見惚れていた恥ずかしい記憶だ。
そこから次第に目で追うようになり、彼の優しい人柄を知った。
躓きそうになっているクラスメイトを支えたり、良く一緒に居るレイフが授業で困惑しているとそっと教えてあげたり。
知らないだけで、もっとたくさん彼が助けた人は居る。
その中でも、図書室に用事があって移動している最中に見た、イジメの現場に何の躊躇いもなく間に割って入ったことは今でも鮮明に思い出せる。
男の子を後ろに庇って、上級生である貴族の方たちに堂々と胸を張って相対していた。
「魔力が無いから、才能が無いから劣っているという考えは、薄っぺらいな。努力している人間を見下してもいい理由にはならない」
強くはっきりと、貴族だとか平民だとか、そんな身分など関係ないのだと、そう体で体現しているような気がして、酷く心臓が揺さぶられた。
シリウスのことは何も知らない。
過去も、思いも、人柄も。
でも確かに分かることは、人と関わることを諦めない、恐れない人。
前を向いて、自分の足で立てる人。
だから、もっと知りたいと思った。
あなたと同じ場所に立って、同じ景色を見たいと思ったんだ。
身体を拭き、髪を乾かしていく。
制服に身を通し、時間を確認しながら、紅茶をゆっくり口に入れて、カーテン越しに空を見る。
今日も見事な晴天だ。
食堂は相変わらず、人が疎らで、空気がゆっくりと流れていく。
いつもの姿を探して、足を向けた。
「おはようございます」
「おはよう」
ちらりとだけ覗く右眼に、にっこり微笑み返して、席に座る。
シリウスの向かいの席だ。
「……いいの?」
「はい、もう大丈夫です」
「そう」
近くで見ると、指先は男性のだと分かるほどごつごつしていて、ところどころマメもできている。
努力の証だ。
「昨日はお疲れさまでした」
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」
何故君がお礼を言うのかという視線を訴えてくる。
にっこりと笑顔で返した。
「ウォルターがまたシリウスさんと手合わせをしたいと、おっしゃっていました」
「勘弁して」
「そう言わず、たまに付き合ってあげてください」
「暇だったらね」
「はい」
きっと今日が、シリウスの隣に立つための、第一歩だ。
緩やかな暖かい風と共に、小さな光が希望を謳っていた。




