15
「まさか、お前からそんな言葉が出てくるとは、想像もしていなかった」
目元を押さえて紅い髪を振っているドレイクは、少し倦怠感が滲み出ている。
最近は書類仕事が溜まっていて、やっと終わりが見えてきた頃合いだそうだ。
「決闘、か……」
騎士団長に割り振られている部屋は、広くもなく、狭くもなく、ところどころに高級そうな物が散りばめられている。
息がしづらく感じるのは、いつぶりか。
「分かっているか?相手は侯爵家のご長男だ」
「分かってます」
「自分の実力との差も理解しているか?」
「はい」
「覚悟はできているんだな」
今度はしっかりドレイクの目を見た。
「はい」
大きなため息がドレイクから漏れる。
「分かった、許可しよう」
「ありがとうございます」
「ただし」
食い気味で言葉が差し込まれた。
「ギフト禁止。治療師が治せる範囲での怪我までだ。できるな?」
「はい」
―――――――
専攻科目がメインになってからは、数少ない教養の授業が終わり、廊下が喧騒に包まれる。
その喧騒に紛れて、近寄ってくる声がひとつ。
「シリウス、少し時間いいか?」
Sクラスの教養の授業を任されている教師だった。
軽く返事をし、静かな部屋に移動する。
「まず、決定事項だが、決闘の監督は私になった。日付は1週間後。場所は実習棟。当日は貸し切りにする予定で、治療師が近くに控えている状態でのスタートになる。ここまで質問はあるか?」
「いえ、ないです」
教師の声は授業と同じ表情、同じ温度で紡がれる。
それが身を引き締めた。
「武器も魔法も自由に使用できる、命の危険も考えなければならない場なので、教師も治療師も控える。理解はしているな?」
「はい」
教師の瞳をじっと見返して、すっと姿勢を正す。
「ドレイク・バルタザール騎士団長の許可は頂いています」
「そうか」
教師はひとつ頷いた。
「君が他の学生とは画す存在であることは理解しているつもりだ。ただそれでも君は私の生徒であることは変わりない」
光が教師の目の前を照らし出した。
「全力でぶつかってきなさい」
――――――
シリウスの武器は魔武器と呼ばれる、魔力を吸収し、その属性の特徴が剣戟に現れる特殊な武器だった。
黒い刀身は、闇属性を司っている証である。
無言でその武器の刀身を、乾いた布でなぞる。
胸に燻っている重たい決意は、刀身にじんわりと流れていく。
魔法は使うつもりはない。
この剣を使わなくても、いいかもしれない。
手に馴染む柄をぎゅっと強く握る。
この剣は全て見てきた。
そしてこれからも一緒に見ていく。
スッと天井に掲げた剣が、強い光を放っていた。
―――――――――
朝の食堂は、まだ点々と人が居るだけに留め、密やかな音が響いている。
早い時間から太陽が熱を放つようになって、じんわりと温かい空気が体を包んでいた。
机と椅子の冷たい温度が、体を引き締める。
「おはようございます」
「おはよう」
いつもの挨拶、いつもの席、いつもの時間。
違うのは、ケイリアの瞳か。
「私は、ウォルター様が実直な人であると知っています」
静かに紡がれる音を一つも逃がさないように、意識を向ける。
「そして、あなたが優しい人であることも知っています」
ケイリアと目が合った。
「シリウスさん。信じています」
そこには確かに決意の色があった。
口を開かず、その言葉だけを受け取った。
「先に失礼します」
「はい」
身体を蝕む熱は、椅子にもしっかり届いていた。




