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「まさか、お前からそんな言葉が出てくるとは、想像もしていなかった」


目元を押さえて紅い髪を振っているドレイクは、少し倦怠感が滲み出ている。


最近は書類仕事が溜まっていて、やっと終わりが見えてきた頃合いだそうだ。


「決闘、か……」


騎士団長に割り振られている部屋は、広くもなく、狭くもなく、ところどころに高級そうな物が散りばめられている。


息がしづらく感じるのは、いつぶりか。


「分かっているか?相手は侯爵家のご長男だ」


「分かってます」


「自分の実力との差も理解しているか?」


「はい」


「覚悟はできているんだな」


今度はしっかりドレイクの目を見た。


「はい」


大きなため息がドレイクから漏れる。


「分かった、許可しよう」


「ありがとうございます」


「ただし」


食い気味で言葉が差し込まれた。


「ギフト禁止。治療師が治せる範囲での怪我までだ。できるな?」


「はい」


―――――――


専攻科目がメインになってからは、数少ない教養の授業が終わり、廊下が喧騒に包まれる。


その喧騒に紛れて、近寄ってくる声がひとつ。


「シリウス、少し時間いいか?」


Sクラスの教養の授業を任されている教師だった。


軽く返事をし、静かな部屋に移動する。


「まず、決定事項だが、決闘の監督は私になった。日付は1週間後。場所は実習棟。当日は貸し切りにする予定で、治療師が近くに控えている状態でのスタートになる。ここまで質問はあるか?」


「いえ、ないです」


教師の声は授業と同じ表情、同じ温度で紡がれる。


それが身を引き締めた。


「武器も魔法も自由に使用できる、命の危険も考えなければならない場なので、教師も治療師も控える。理解はしているな?」


「はい」


教師の瞳をじっと見返して、すっと姿勢を正す。


「ドレイク・バルタザール騎士団長の許可は頂いています」


「そうか」


教師はひとつ頷いた。


「君が他の学生とは画す存在であることは理解しているつもりだ。ただそれでも君は私の生徒であることは変わりない」


光が教師の目の前を照らし出した。


「全力でぶつかってきなさい」



――――――



シリウスの武器は魔武器と呼ばれる、魔力を吸収し、その属性の特徴が剣戟に現れる特殊な武器だった。


黒い刀身は、闇属性を司っている証である。


無言でその武器の刀身を、乾いた布でなぞる。


胸に燻っている重たい決意は、刀身にじんわりと流れていく。


魔法は使うつもりはない。


この剣を使わなくても、いいかもしれない。


手に馴染む柄をぎゅっと強く握る。


この剣は全て見てきた。


そしてこれからも一緒に見ていく。


スッと天井に掲げた剣が、強い光を放っていた。



―――――――――



朝の食堂は、まだ点々と人が居るだけに留め、密やかな音が響いている。


早い時間から太陽が熱を放つようになって、じんわりと温かい空気が体を包んでいた。


机と椅子の冷たい温度が、体を引き締める。


「おはようございます」


「おはよう」


いつもの挨拶、いつもの席、いつもの時間。


違うのは、ケイリアの瞳か。


「私は、ウォルター様が実直な人であると知っています」


静かに紡がれる音を一つも逃がさないように、意識を向ける。


「そして、あなたが優しい人であることも知っています」


ケイリアと目が合った。


「シリウスさん。信じています」


そこには確かに決意の色があった。


口を開かず、その言葉だけを受け取った。


「先に失礼します」


「はい」


身体を蝕む熱は、椅子にもしっかり届いていた。



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