表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/40

14


朝のランニングを終え、シャワーを浴びる。


同室者の確認をした後、食堂へと移動した。


閑散とした食堂に足音だけが響く。


音の反響がやけに耳に残った。


食事を進めていると、鋭くなった聴覚が訪問者を知らせる。


ケイリアだった。


「……おはようございます」


「おはよう」


そこからの会話はなかった。


カチャカチャとカトラリーの音だけが響く。


時折感じる視線には気づかないふりをして、食事を終えて立ち上がった。


「失礼します」


「はい」


静かな空気が肌を撫でた。



教室ではやはりレイフが隣に腰掛ける。


「おはよう、シリウス」


「おはよう」


どかりと座ったレイフだったが、口はゆっくりと開いている。


「あ、のさ。昨日の、あれ。大丈夫だったか?」


「大丈夫」


「そう?ならいいけどさ」


レイフも昨日の異様な雰囲気を感じ取っていたのだろう。


心なしか心配そうな表情をしている。


「ウォルター・レオンティウスと言えば、かなり硬派だからさ。いじめでもされたかと思って」


「俺がそんなことされるようなたまに見えるか?」


「見えない」


にかっと笑うレイフに呆れのため息を浴びせる。


そんな奴じゃない、ウォルターは。


「おはよう!昨日のあの動きすごかったね~!ズバッズバッズバッてー」


「わかる!あれはもう一回観たい」


陽気なテンションでサイラスが割り込み、それにレイフが同調する。


最近の流れだった。


「お前、何で指揮役やらなかったんだよ」


アウロニスが詰め寄ってくるので、それに少し体を引きながら答えた。


「俺は適任じゃない」


「いや、騎士見習いならやるべきだろ」


「アニスじゃないから」


「だから、アニスって言うな!」


昨日のアウロニスの戦闘を思い出す。


出てきた敵に突貫で相手取り、あぶれたワーウルフを他の隊員が処理する、真逆の戦略。


同じ特異点でありながら、それを前面に押し出す戦術はまさにアウロニスならではだ。


「ウォルターと一緒だったしね、彼、指揮官向きよね」


ベローナの言葉を肯定する。


アウロニスは不服そうな顔をしたが、それ以上は言わなかった。


そういえばとベローナが周囲をキョロキョロと見回した。


「ケイリアさんは?」


「あれ、そういえば席にはいるけど、今日はこっちに来ないんだねー」


「本当だ。どうしたんだろ」


レイフとサイラスも話に加わり、全員でケイリアの後ろ姿を覗く。


朝食の時も様子が変だった。


「具合悪いのかな?」


「もしかして、シリウスなんかした?」


「してない」


レイフの言葉を一蹴し、もう一度ケイリアを見る。


ベローナが言う具合も悪くはなさそうだ。


何かを思い詰めている、そんな後ろ姿だ。


そして昨日のウォルターとの会話を思い出す。


婚約者なら、事情を聞いたかもしれない。


ケイリアがそれをどう受け取って、どう判断したか分からない。


聞かないし、歩み寄ることもしない。


『決闘』という重みは言葉では表せないだろう。


ウォルターにとっても、ケイリアにとっても。


これは安易に引き受けていいものではない。


保留にした蟠りが、胸を燻る。


教師が教室に入るまで、誰の声も耳に入ってこなかった。



今日の騎士見習いの仕事は非番で、落ち着かない気持ちが実習棟に足を運ぶ。


実習棟は生徒たちが自主鍛錬をするために、放課後、解放されていることが多い。


今日もステージの半分ほどが埋まっているのを確認して、ソレに気づいた。


ウォルターが木刀を振っている。


それを見守るかのようにケイリアが近くに佇んでいた。


木刀を振るたびに空を切る音が響く。


2人の間に会話はなく、そこに強い理解の絆を感じた。


ウォルターは相も変わらず、黙々と振り続けている。


上段斬り、一文字斬り、袈裟斬り、突き。


魔力操作と同じように、一つ一つの所作に無駄がなく、洗練されている。


赤い瞳には、前を向き続ける直向きさが、強く光っていた。


ウォルターは、本気だ。


貴族とか平民とかの垣根を越えて、必死に自分に立ち向かおうとしている。


シリウスは、ぐっと拳を握る。


誰かが、頑張れと、声をかけてくれた気がした。


「ウォルターは剣術も綺麗だな」


歩み寄って声をかければ、汗を拭ってウォルターがこちらを向く。


ケイリアの視線も受け止めながら、更に口を開いた。


「基礎がしっかりしてる」


「死ぬほど努力してきたからな」


「そうだろうね」


「ただまだ足りない」


悔しさの滲む顔は、昨日と同じ。


「手首が硬い。柔軟を重点的にやる方が、スピードが上がると思う」


「……」


ウォルターの瞳が射抜く。


その目は諦観か、それとも期待か。


「ウォルター。決闘、受け入れるよ」


ウォルターの瞳が揺れた。


「ありがとう……」


夕日が窓から差し込み、温かい音が実習棟を覆いつくした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ