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昼休み前、教室の空気はどこか緩んでいた。
専攻試験がひと段落したことで、張り詰めていた緊張が少しだけ解けている。
シリウスは、レイフと隣同士で座り、本を読んで暇つぶしをしていた。
レイフはそれを横目に、先ほどまで行われていた試験の疲れを机に突っ伏すことで体現している。
「もう試験、暫くやりたくない」
「学科によるだろうけど、もうないんじゃないの?」
「たぶん」
机にぐりぐりと顔を押し付けているレイフの疲れは最もだった。
今回は魔法科と経済学科の試験を連続で執り行われたのだ。
シリウスは経済学科は受けてないので、レイフよりも疲労感は少ない。
特にあの筆記特有の張り詰めた緊張感が、実技試験の騎士科と魔法科よりも精神的負荷がかかっているかもしれない。
「経済学科は、1か月ごとに筆記試験やるみたいだよー」
自然に侵入してきた声に顔を上げれば、レイフの対戦相手だったサイラス・リアンダー。
その後ろには当然のようにアウロニス・エレンディルとベローナ・パーシヴァルもついてきている。
アウロニスはしっかりとした足取りで、こちらに歩み寄ってきている。
そこに敵意は感じられなかった。
その視線がないだけで苦手意識が薄れるのだから、今までが異様だったということだろう。
「えー?ありえないんだけど。本当に勘弁してほしい」
レイフはごく普通に受け入れ、顔を上げる。
サイラスとレイフが二人で話に盛り上がるのをよそに、本に目を落とした。
「シリウスは経済学科いなかったね」
ベローナが話しかけてきたことを、少し意外に感じながら、「錬金学科だから」と伝えると、驚きの表情で返される。
「え、またマイナーなところに行ったね、ね?アニス」
「あんな使えないところなんか行ってどうするんだよ」
言い方は粗野だが、ニュアンスは昨日よりも柔らかくなったような気がする。
それよりも気になることがある。
「あまり頭使うのは得意じゃなさそう、アニスは」
「馬鹿、俺は割と筆記の成績もいいんだよ!ってか」
「何」
「アニスってお前が呼ぶな」
「可愛いんじゃない?」
「だからだよ!お前には呼ばれたくない!」
「知ってる」
からかってやれば、アウロニスは顔を目いっぱい歪めて、なんなんだよ!と喚き散らしていた。
ベローナもクスクスと笑っている。
「案外、騎士見習い同士で気が合うのね」
「合うわけないだろうが」
否定していてもその姿は満更でもなさそうだ。
「あの……」
更に別の人物に話をかけられて、そちらに目を向ければ、朝食時にいつも顔を合わせるケイリア・ベルナデットが恐る恐るという姿勢で話しかけてきた。
意外な人物に目を瞬かせる。
「あら、ケイリアさん。どうしたの?」
「ベローナさん、挨拶がまだでしたね。おはようございます」
「ええ、おはよう。もうお昼だけれどね」
にこにこと女同士で喋っている姿はやはり二人とも貴族だった。
しかし、その合間もチラチラとこちらに視線を寄こしてくるケイリアはどうやら別の要件があるようだ。
それを察知したのかベローナも女同士の会話もそこそこに、こちらに話を振りかける。
「そういえばケイリアさんの剣戟、見事だったよね、シリウス」
「うん、綺麗だと思ったよ」
率直に言った。
それが周囲をぎょっとさせた。
別の話に盛り上がっていたサイラスとレイフでさえも、話を中断させている。
「お、お前、そんなことも言うのかよ」
口火を切ったアウロニスに、怪訝な顔をしてしまうのも仕方がないだろう。
「言うだろ、感想くらい」
「そ、そうだよね、剣戟のことよね」
ベローナがおどおど付け加えた言葉に首肯すれば、隣で赤くなっていたケイリアが口を開く。
「あ……あ、ありがとうございます」
しゅるしゅると縮んでいく声に思わず、自覚する前に口が緩んだ。
「おいおい、シリウス、お前ケイリアちゃん狙ってんの」
「意味が分からない」
「無自覚かよ」
「喋るな」
茶化すレイフを適当にあしらっていると、今度はサイラスが口を開いた。
「ケイリアちゃん婚約者いるからねー狙っちゃだめよー」
にこにこ冗談交じりの言葉に、分かってると返事をした。
分かっている。
だから今まで、クラスでは話をしないように心がけていたし、この光景を周囲がどう判断するかなんて、考えなくても分かることだった。
ふと、教室の外に意識を向けると、一対の敵意を感じた。
嫌な予感はよく当たる。
思わずため息を吐いて、考えるのはやめた。
どうせ、起きることは起きてしまうのだから。




