『プレスマンの病』
飛騨国に名人と呼ばれる工匠があって、一日に七つもの観音堂をつくったという。それというのも、この工匠が板を切ると、切られた木の切れ端にも魂が宿って、工匠の弟子となって働くからである。これを聞いたある速記者が、この工匠にプレスマンをつくってもらうことにした。プレスマンに魂が宿って、速記者の弟子になってくれれば、速記の仕事をたくさん受けても、同時にこなすことができて、もうかるのではないかと思ったのである。工匠は、見事なプレスマンをつくったが、速記者に渡すときに注意を与えた。このプレスマンには、魂が宿っていますので、あなたの弟子となって働くことでしょう。しかしながら、もともとが木っ端ですので、魂が宿って人のように働いても、突然病にかかって、動かなくなります。このことだけはお気をつけください、と。
さっきまで書けていたプレスマンが、急に書けなくなるという不具合は、このときから始まったのだという。
教訓:プレスマンは、手によくなじみ、速記を書くのに最適であるが、よく芯が詰まる。普通は、腹を立てるところであるが、それこそがプレスマンだ、と愛らしく思えるようになったら、プレスマンのほうから弟子入りしてくる。