【第7話】「休みの日、街を歩く」
異世界焼肉に来てからの日々は、慌ただしくも賑やかだった。
だけど今日は――10日ぶりの休み。
仕事も喧騒もない、静かな街を歩く一日が始まる。
昨日の興奮もまだ胸に残ったまま、朝の光で目が覚めた。
今日は、なんと10日ぶりの休み。
といっても、特に予定もないし、どこへ行くべきかも分からない。
お母さんは「久しぶりにゆっくりしなさい」と笑い、アーちゃんは布団の中で「ふぁ〜い」と気の抜けた返事をして、まだ起きる気配がない。
「……じゃあ、一人で出かけてみるかな」
そう呟き、私は軽く身支度を整えて外へ出た。
石畳の通りは朝の空気が澄んでいて、遠くからパンを焼く香ばしい匂いが流れてくる。
歩いていると、時々いつもの常連さんたちとすれ違い、「おう、ルミちゃん!」と気さくに声をかけられる。
私は少し恥ずかしくて、小さく会釈だけ。――こんなんじゃダメよな、と内心思いつつ、まぁ、仕方ないかと笑ってしまう。
ふらりと立ち寄った服屋では、色鮮やかなワンピースや、手刺繍のシャツが並んでいた。
アクセサリー屋では、銀細工の指輪やネックレスがガラスケースに並び、その中に「ラック+3」と書かれた指輪を見つける。
「それは付与魔法付きだよ。今なら1万Gでどうだい?」と店員さんが得意げに言う。
「たかっ……」思わず口に出してしまい、今回はそっと見送り。
通りを進むと、木製の大きな扉と看板が目に入った。
冒険者ギルド――昼間だからか、中は静かで、人影はまばら。
ここで契約をしている冒険者たちが、うちの店の大得意様なんだろうなぁ。
“気をつけていっぱい稼いできてね”と心の中でつぶやき、その場を後にする。
小腹が空いて、屋台で串焼き肉を一本。
香辛料のきいたジューシーな肉を頬張りながら、知らない路地を散策する。
気づけば陽は傾き始め、空が金色に染まっていた。
「そろそろ帰らないと、夕食の時間か」
残り物のお肉ばかりは飽きてきたなぁ……なんて、贅沢なことを考えながら、途中の八百屋で唐辛子や香草を購入。
明日は辛いスープでも作ろう。そう思いながら、明日からまた始まる異世界焼肉の戦場を想像する。
店に戻ると――
アーちゃんが、自分のスープに例のデスソースを入れすぎて、顔を真っ赤にして悶え苦しんでいた。
「な、なんでこんな辛いの作ったのよ……!」と涙目。
お母さんは呆れた顔で「自業自得だよ」と笑い、私はその光景に吹き出してしまう。
こうして、休みの日の夕暮れは笑いで終わった。
異世界焼肉、本日クローズ。
第7話、お読みいただきありがとうございます!
今回は仕事を離れたルミの休みの日を描きました。
街歩きの何気ない出会いや、異世界ならではの品物、そして最後のアーちゃんの自爆……。
いつもと違う静かな日常の中にも、やっぱり笑いがあるのが異世界焼肉ですね。
次回からはまた営業日。
新しい食材、新しい客、そしてまた賑やかな夜がやってきます。