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始まりー2-

 ――こうして世界は聖女シオンと精霊王ルナ・ピエーナによって救われました。


 そして最後に精霊王はこう言い残しました。


「私が姿を現すことはもう二度とないだろう。人の素晴らしさとは考えることができることだ。助け合いなさい、愛し合いなさい。私たちはきっと傍にいるわ。」


 そう言い残すと精霊王の姿は聖女シオンを連れて、現れた扉の中に消えていきました。


 そして世界は平和で充ち溢れました。


 end――


「精霊王様が本当にいたらどんな人だったんだろう。」


 ぽつりと言葉に出すと、風が目の前を通り過ぎていきくすくす笑っているような声がした。


 驚いて風の去った方向を見ても、そこにはなにもいなかった。


 きっとお父さんが変なこと言うから真に受けちゃったんだとため息をついて、寝転がると青く澄んだ空が普段よりも綺麗に感じた。


 精霊王や神様がいるならきっと空だ。


 だってこんなに綺麗だもの。


 帰る途中お父さんに聞いてみよう、きっと教えてくれると思うから。


 それから5分経ったくらいに、籠半分くらい入った薬草やきのこを担いだお父さんが戻ってきた。


「待たせたね、遅くなってごめんよ。なにもなかったかい?」


 お父さんは軍手を外して、頭をくしゃくしゃに撫でてきた。


 誰も見ていないのはわかっているけど、やっぱりちょっと恥ずかしい。


「大丈夫だよ。本読んで空見てたらあっという間だった!必要なものは揃ったの?」


「ばっちりだよ。フジ、これを見たまえ。母さんも喜ぶよ。」


 いつのまにか下ろしていた籠から自信満々に取り出したのは、丸々として綺麗なピンクに色づいた貴族でも手に入れることが困難の白桃だった。


「は、白桃……!?どこにあったの!……うわぁ図鑑でしかみたことないよ!お父さんすごい!」


 鼻を膨らませながら頷き、満足げな顔をするお父さんを見て吹き出した。


 笑うなよと言いながら頬を膨らますのを見てもっと笑った。


「……母さんも心配するし、そろそろ帰ろうか。」


「うんそうだね。白桃、絶対喜んでくれるよ!」


 片づけをして、危ないからと差し出された手を繋いで秘密基地を後にした。


 ノヴェルニオの森を抜けたころには、空はお父さんの髪色のように紅く染り始めていた。


 ふと足を止めて空を見上げながら聞いた。


「……ねぇお父さん、あの空の先には精霊王や神様が住んでいるのかな?」


「精霊王はわからないけど、神様はいないよ。絶対にね。」


 お父さんは握っていた手をぎゅっと優しく握りながらそう言った。


 顔見ると空を見上げながらとても悲しい眼をしていて、それ以上は何も聞けなかった。


 その後は会話もなく、気づくと家の前に着いていた。


 入る前にお父さんは僕を引き寄せてぎゅっとした。


「さっきはごめんよ。父さん怖かったよね。許してくれるかい?」


 罪悪感の混じった優しい声。


「少し怖かった。……けど僕はお父さんが大好きだから許してあげる!それよりもお母さんに早く渡そう。」


 ニヤッとしながら籠を指すと、お父さんも安堵したのか柔らかい顔に戻っていった。


「……ありがとう、フジ。そうだね、早く入って母さんを驚かせようか。これはフジが渡しなさい、喜んでくれるから。」


 白桃を受け取り、お母さんにバレないように手を後ろの隠した。


「よし、じゃあ開けるよ。」


 玄関の扉を開くと、お母さんはソファで編み物をしていた。


「ただいまー!」


 お母さんは僕たちを見て安心したようにほっと息を吐いていた。


「おかえりなさい、少し遅かったから心配しちゃった。お風呂の準備ができているから、ふたりで入ってきちゃいなさいね。……今日はハンバーグよ。」


「やった、久しぶりのハンバーグだ!……それはそうと、はいこれ。お父さんが見つけてきたんだよ。」


 隠していた白桃をお母さんに手渡すと、僕が初めて見たときと同じように目をキラキラとさせた。


「これ、白桃じゃない!嬉しいわ。ふたりともありがとう。夕食の後にいただきましょうね。……ヒイラギさんはこれをどこで見つけたのか後で詳しく聞かせてくださいね?」


 白桃を大事そうにテーブルに置いて、僕のことをぎゅっと抱きしめて微笑むんでくれた。


 そのあとお父さんに向けた笑顔は、僕のときとは違いなぜか少し怒っているようだった。


 お風呂のあと大好物のハンバーグを食べたり、初めての白桃の甘さに驚いたりしていたら、あっという間に寝る時間だ。


「お母さん、お父さん、おやすみなさい!」


「おやすみなさい。いい夢を見てね。」


 ふたりとハグをして自室へ戻り、長い散歩で疲れた体は一直線にベッドへ寝転がった。


 お母さんが昼間に干しておいてくれたのか、布団からは太陽のいい匂いがする。


 目を閉じると帰り際のお父さんを思い出した。


 どうしてあんなに悲しそうな眼をしていたんだろうと考えたけど、いつの間にか眠ってしまった。


 

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