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次に彼女を見たとき、彼女はその黒いワンピースをずぶ濡れにしていた。彼女の純白の肌には真珠のような水玉が次々と流れていた。
つまり、彼女はプールに落ちたのだ。
3階から。
ここの学校は授業用プールと飛込プールの2つがあり、どうやら飛込プールに落ちたらしい。
「お前さ、馬鹿じゃねぇのか?」
保健室で寝ていた彼女は口を開けようとはしなかった。
「そもそも、なんでそんなに死にたがるんだよ。別に変わらない世界で変わらずに生きていたら、いいじゃないか」
すると彼女は、少しの間を置いて「嫌」とだけ言ったのだった。
その後彼女は、平常授業の日の下校時間、7時まで眠っていた。誰かの寝顔を見たのは、久々だった。でも、その寝顔を見て、俺は驚いた。棺の中の両親に似ていたから。そして、あまりにも綺麗だったから。まるで、毒林檎で眠らされた、針で眠らされたお姫様のような寝顔。細い吐息が心地よく聞こえてきて、そして、いつの間にか俺も寝ていた。
ちょうど彼女の寝ているベッドに寄り添った状態で。
目が覚めると、外は真っ暗になっていて、低空に潜む欠けた月が顔を覗かせていた。そして目の前には、すでに身支度を済ませたであろう黒条が呆然と佇んでいた。俺はとっさに寝ていたベッドから重い頭を上げる。そこでふと、思い出す。
「……なぁ、お前屋上で去り際に2年3組って言ったよな?」
俺がなぜ一発で彼女の自殺しようとしていた教室を見つけ出せたのか。きっと彼女は全て分かっていて、さらには気付いてほしかったのだと思う。
――――私はここにいる。
――――私は2年3組にいる、と。
すると彼女は首を傾げて言った。
「一応病院に行くから……来て」
だ、そうだ。全く話が噛み合っていないことは、気にしないでおく。そして、俺には拒否権などないことを知る。彼女、俺のかばんを待っていたから――。