第35話 怖いんじゃないか
「……ヒロ殿、ホントに大丈夫だよな」
「あなた、もう何度目ですか。いい加減に腹を括ったらどうですか。まったく情けない」
「ティリアよ、そうは言うが……転移だぞ」
「はい。それが何か?」
「……お前は平気なのか?」
「不安がないとは言いませんが……」
「だろ? やっぱり怖いんじゃないか。ふふふ、私だけじゃないじゃないか」
「だから、なんです?」
「え?」
「怖いからなんですか?」
「え? いや、ティリアも怖いのなら「イヤですよ」……はい?」
「確かに怖いですよ。ですが、実際にヒロ様だけでなくオジーも何度も行き来しているじゃないですか。それに転移でなければ今までの様に馬車での移動になるのでしょ」
「まあ、そうなるな。だが、今まで通りなのだからいいじゃないか」
「だから、それがイヤなんです!」
「え?」
「いいですか。よ~く思い出して下さい」
「あ、ああ」
「まず王都までは一時間やそこらで行ける距離ではありません」
「まあ、そうだな。何をそんな当たり前のことを「いいから、思い出して下さい!」……はい……」
「と、言って二時間や半日ではなく一月近くも狭い馬車の中に閉じ込められ、途中に休憩を挟むにしてもトイレに行くのも気を使い、泊まった宿では私達が相手だからなのかやたらと香辛料を使っただけの料理を出されるし、ストレスがハンパないのですよ!」
「いや、そうは言うが道中の町や村でお金を落とすのも貴族としては「それ貴族としての役割の一つだと言うのは分かります」……なら「だけど、私までそれに付き合う必要がありますか?」……え?」
「ですから、街道の途中でお金を落とすのはあなたにお任せするので、私はヒロ様の転移で王都に行きます」
「いや、でも……」
「領地貴族への挨拶ですか?」
「あ、ああ……そうだ。私一人では「では、私は病気と言うことで」……はい?」
「ですから、私がいないと不都合があると言うのならば、私は具合が悪く同行していないとか、色々と言い訳は出来るでしょから、いいですよね」
「……」
「そういうことなので先程も言いましたが、私はヒロ様と一緒に王都へ行きます。あなたはどうなさいますか?」
「……」
なんだかんだと転移が怖い伯爵様と慣れないというか初体験となる転移は確かに怖いが、一月近くの馬車の旅に比べれば、そんなもの屁でもないと言いたげな奥様と攻防を繰り返していたが、結果として一人だけ一月近くも遅れて王都で合流となれば、それも色々と都合が悪いだろうということで伯爵様が折れる形で転移で行くことを決めた。
王都にも常駐しているメイドさん達はいるが、数人の側使えの人達も一緒に行くことになり、俺は数度の転移を繰り返し最後に伯爵様と奥様に先輩、それにユリアだけが残された。
「……」
「もう、覚悟は決めたのでしょ。ほら、子供達も見ているのだから、ちゃんとして下さい」
「ティリアよ、そうは言うが……ヒロ殿……」
「ハァ~ヒロ様、やっちゃって下さい」
「分かりました。では、先に『転移』」
「へ……あ……」
「お父様!」
「父上!」
「パパ!」
「はい、送って来ました」
「「「早っ!!!」」」
いつまでも覚悟が決まらない伯爵様を見て奥様が俺に「先に連れて行け」と言うので、俺は伯爵様の手を取り、一気にオジーと先に転移したメイドさん達が待つ場所へと転移してオジーに伯爵様を押し付けると瞬時にとんぼ返りで御屋敷へと戻る。
「では、そろそろ私も行きます。あなた達にはお留守番をお願いすることになりますが……」
「お母様、大丈夫です! 私がちゃんと弟達の面倒は見ますので」
「母上、私も淋しい気持ちはありますが、これでも長男としての自覚はあります。ですから、ご心配無用です!」
「ママ、お土産お願い!」
「……セツちゃん、お願いね」
『大丈夫だよぉ~ちゃんと報告はしてもらうからぁ~ねぇ~』
『『『はい!』』』
「「「え?」」」
「そういうことです。いいですか、あなた方を信用しないわけではありませんが、あなた達のスライムから毎日報告を上げてもらいますから。決してサボることがなきように。いいですね!」
「「「イエスマム!!!」」」
「よろしい、では行きましょうか」
「はい……」
お子様達が見ている前で転移することになったのだが……
「ユリアさん? 何も抱き着かなくでもいいんですよ。ね、ヒロ……ヒロ? 顔がニヤけているわよ」
「え……あ、そ、そうですね。ユリア、そんなにくっ付かなくても大丈夫だから。俺の肩に手を乗せるくらいで十分だから、離れようか」
「ふふふ、イヤです」
「ユリア?」
「では、私は背中側で」
「「「え?」」」
「ウララ様、行きますよ」
「え……いや、でも……ヒロもニヤついてないでなんとか言いなさいよ!」
「……そんなことより、はい。早く手を取って下さい。さっさと転移しちゃいましょ」
「く……何か負けた気がする……」
「ふふふ、早い者勝ちですから」
前にユリアのささやかながらも柔らかい感触と背中から奥様に抱き着かれ、腰の上辺りに意識が集中してしまい先輩が指摘するように思わず顔がニヤついてしまう。
先輩もこういう状況が不満なら、さっさと終わらせる為にもさっさと転移すればいいのだからと先輩に手を伸ばせば、先輩は俺の手を握ると不満を口にしユリアは勝ち誇る。
俺ももう少し前後の感触を楽しみたいが、こういうことは長引かせてもいいことはないとさっさと転移するに限るとばかりに「転移しますね」と声を掛け、さっさと転移する。
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