閑話 とあるパーティの目論見
オジーとその奥さん達との馴れ初めを書いてみました。
本筋には関係ないので読み飛ばしても構いません。
~とある冒険者ギルド併設の酒場にて~
「では、依頼達成を祝して……」
「「「かんぱぁ~い!」」」
「プハァ!」
「ん~うまい!」
「……」
そのテーブルでは商人の護衛依頼を終えたばかりのパーティ『聖なる乙女』が祝杯をあげていた。
一人は赤毛の短髪でタンクトップからはムキムキの二の腕がこれでもかと主張しているタンク役のモモ。
その横には軽くウェーブが掛かった肩までの茶髪をいじっているのは剣士のキキ。
その二人の間でおっとりとした雰囲気で腰まである長いストレートの銀髪の魔道士のルル。
乾杯を済ませた後モモとキキが一息にジョッキの中味を飲み干すが、ルルだけは一口飲んだだけでジョッキをテーブルの上に戻す。
そんなルルの様子に気付いたキキが「どうしたの? 調子が悪いの?」と声を掛けるが、「そうじゃないの」と首を振って答える。
「なら、どうしたのさ。いつものアンタなら直ぐに二杯目を頼んでいるだろ? そんなアンタが一口だけで済ませるなんて体調がおかしいとしか思えないだろ」
「そうね、何かあったのなら相談にのるわよ」
「うん、ありがと」
「で、何さ」
「そうよ、言いなさいよ。何か悩み事でもあるんでしょ」
「……」
「ほら、言いなよ。気になるじゃないか」
「そうよ、もう全部吐いちゃいなさいよ」
「……怒らない?」
「あ? 怒るも何もまだ何も聞かされてないからな」
「そうね。ま、内容にもよるんじゃない?」
「でも、言うと引くから……」
「あ~もう、面倒くせえ。いいから、話せよ。どっちにしろ、アンタがそんな調子じゃ次の依頼も安心して受けられないじゃないか」
「そうよ。一人の体調不良が原因で依頼が失敗するなんてイヤよ」
「……分かった。じゃ、言うね。あのね、ないの」
「「は?」」
「だから、ないの。もしかしたら……」
「「……」」
漸く重い口を開いたルルの発言内容にモモとキキはジョッキをゆっくりと下ろすと「アンタもか」「ルルもなんだ」と言えばルルは「も?」と聞き返す。
「「……」」
「ねぇ、『も』って何? ねえ、どういうこと?」
「キキから言えよ」
「イヤよ! モモが言いなよ」
「「……」」
「二人ともデキたのね?」
「「……」」
ルルの言葉に二人は黙って頷くと三人揃って「ハァ~」と嘆息し項垂れる。
「「「これから、どうするの?」」」
三人が同時にそんなことを口にするが、誰も答などもっていない。
「まさか、三人が同時期になんてな」
「……ってことは?」
「あの人達ってことでしょ」
「やっぱりかぁ~」
「まさか、竿姉妹ってことはないわよね?」
「多分、それは大丈夫よ。多分だけどね」
三人が共通して思い当たること……それは少し前に一緒に護衛依頼を受けたエルフ、ドワーフ、獣人の三人組のパーティだった。
「モモはあのエルフでしょ。そしてキキはドワーフで、私は獣人の彼だもの。ね、そうでしょ」
「……ああ」
「……うん」
「それでどうする?」
「どうするって?」
「お腹の子よ。このまま冒険者を続けることなんて無理よ」
「なら、いっそのこ「イヤ!」と……え?」
「私は産むわ。ちゃんと産んでみせる!」
ルルがお腹を擦りながら、今後のパーティとしてどうするべきかを相談するが、モモも同じ様にお腹を擦りながら始末するしかないかと言おうとしたところでキキが絶対に産むと宣言する。
「お前なぁ~簡単に産むと言うけど、その間どうするよ?」
「どうするって?」
「あのね、キキ。お腹が大きくなると冒険者活動なんて無理よ。そうなれば、当然その間は無収入になるでしょ」
「あ……」
「分かったみたいね。だから、可愛そうだけど……」
「待って! じゃあ、アイツらに言えば「どうやって?」……え? あ!」
産みたいと言ったキキにモモとルルはお金という現実を突き付ければ、キキは「それなら」と父親となる男性冒険者達を思い浮かべるが、それは直ぐにルルに否定される。
「私達も冒険者だから分かるでしょ。元々根無し草みたいな生活をしているんだから、どこにいるのかなんて分からないし。もし、ギルド経由で連絡を取れたとしてもちゃんとした答えをもらえる保証なんかないし、それに連絡つくまでどれくらいの期間が掛かるかも分からないわよ。その間は結局お金が必要になるのよ」
「ぐ……」
「分かってもらえたみたいね。じゃ、可哀想だけど「ちょっと待て!」……え?」
キキを説得していたルルにモモが待ったを掛ける。
「どうしたの? モモも分かっているでしょ」
「そうじゃない。もしかしたら、上手くいけば全部解決するかもしれないぞ」
「「え?」」
「ほら、いいから受付カウンターを見ろ」
「何? 別に何も……あ!」
「何? もう、私にも分かる様に説明してよ!」
「「シッ!」」
「えぇ……」
その頃、冒険者ギルドの受付カウンターでは一人の若者が受付嬢と揉めていた。
「ですから、この依頼はパーティ単位でないと無理なんです! オジー様は単独ですから、この依頼は受けることは出来ませんって、もう何回も同じ事を言わせないで下さい!」
「……ですが、その依頼を受けないとランクアップ出来ないんですよね」
「まあ、そうですね」
「それにパーティでないと無理と仰いますが、私は単独でも十分に戦えますから、問題ありません。ですから、受けさせて下さい。お願いします!」
「……私だってオジー様の実力は分かっているつもりです。ですが、規則なのでこればかりはどうしようもありません。それにオジー様なら、頼めば誰でもパーティに入れてもらえるんじゃないですか?」
「……」
「どうしました?」
「……それが出来ていれば、こんなことにはなっていません」
「まあ、そうですよね。じゃ、この依頼は諦めて下さい。次の方、どうぞ」
「ちょっと、ケリーさん!」
「オジー様、次の方の邪魔になりますので……」
「……」
そんなオジーの様子を見ていた二対の目がキラリと光る。
「いいわね」
「だろ?」
「ね、どういうこと?」
「ふふふ、あのね……」
一人、蚊帳の外に置かれていたキキにルルが分かり易く説明する。
そして数日経った頃、オジーは四人組パーティとして依頼を受けていた。
その護衛依頼の野営場所ではオジーとモモが倒木の上に少し離れて腰掛け焚き火を絶やさないように番をする。
「オジー、今日は私と見張りだな。よろしく頼むぞ」
「は、はい! こちらこそ」
「そう、固くなるな。いいから、もう少し側に寄りなよ」
「……」
「あ~もう、面倒だな」
「え、えぇ~」
「なんだ。別にいいだろ。こうしてくっ付いていた方が暖かいだろ」
「そ、そうですけど……」
少し頬を赤らめ挙動不審になるオジーを見て、モモは『チョロいな』とほくそ笑む。
オジーがパーティを組む少し前のこと、オジーに目を着けた三人は数日間オジーを観察した結果、オジーが対人関係、特に女性に対してはほぼ無理と判断した。
そしてモモとルルの計画ではパーティが組めないオジーをなんとか自分達のパーティに引き入れ、後は懇ろになれば「デキちゃった!」で責任を問えばいいだけだとキキに説明するが、キキは「イヤだ!」とそれを拒否する。
「別に問題ないでしょ。それこそ野良犬に噛まれたと思えばいいだけですし」
「いや、多分そこまでしなくても大丈夫そうだぞ」
「「はい?」」
「あのな……」
モモは悪戯っ子の様に笑いながら二人に説明する。
「なるほど……そういうことですか。どうです? キキもそれくらいなら我慢出来るでしょ」
「キキ、ちょっとチュッとするだけだ。何もベロチューまでしろとは言ってない」
「……」
「そう。出来ないのね。なら、この計画は私とモモで「やる! やればいいんでしょ! やるわよ! お腹の子の為だもの!」……分かったわ。じゃあ、計画を進めるわよ」
「ああ」
「うん!」
これがオジーにとっては不幸な……三人の元奥さん達には少しばかりの幸福を味わえた寄生生活の始まりだった。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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