第34話 二人いるのが問題なら
オジーを王都の近くに送り届け「じゃ、次は三日後で」と伝えて、すぐに部屋に戻る。
「ただいま……っと」
「お帰りなさい、ヒロ」
「お帰りなさいませ。旦那様……うふっ」
「「えっ?」」
部屋に戻った俺を先輩とユリアが迎えてくれたが、ユリアが俺のことを『旦那様』と呼んでいたので、俺だけでなく先輩も驚いた顔でユリアの顔をガン見する。
「え? 何をそんなに驚く必要があります?」
「いやいやいや、驚くどころかドン引きだよ」
「そうね。だって、ヒロはまだあなたとのことは了承してないでしょ」
「そんなの時間の問題ですよ。ねえ、旦那様……もし、私がいらないと言うのであれば……」
「「ば?」」
「うふふ、今は言いません。答はその時に教えますから」
「「怖っ……」」
とりあえず今は無害だろうと判断し、そろそろ王都に向かうべく先輩と一緒に準備を進める。
「ところでコスメ関連の方は順調なんですか?」
「ん~順調とは言えないけど、問題はないかな」
「それはどういうことですか?」
「えっとね……」
先輩が勧めていたコスメ事業はどうなのかを確認してみた。
特にシャンプーにトリートメントなどは宰相様からも「どうにかしてくれ」とせっつかれている状態なので、もし計画が頓挫していたら、まだ王都には行けない。
「それなら、大丈夫よ。奥様のお力添えもあって、なんとか大量生産は出来る目処はついたわ。だから、いつ王都に行っても大丈夫よ」
「ん? なら、なんで『順調とは言えない』って」
「あぁ~それ、実はね……」
先輩が言う『順調とは言えない』理由は、奥様が集めてくれた大量生産を賄うためのパート従業員達が商品の存在を知ってしまい「私達にも使わせて下さい!」と嘆願されている為だと言う。
「だからね、必要とされる量が半端ないのよ。でも、大きなタンクで作れるようになったから、後必要なのは工場の用地と人手かな。それと……」
「まだ、何か?」
「うん、香りかな」
「香り?」
「そ。ほら、人それぞれ好みがあるでしょ。だからね、香りを調合する人が欲しいんだけど、この領都じゃ見つからなくて」
「なるほど。そういう人なら王都で見つかりそうですね」
「うん、私もそう思うの。だから、頑張りましょうね」
「え……は、はい……え?」
先輩は王都で香りの調合師を探すといい、そして俺の手をガシッと握り頑張りましょうと言ってくるが、俺としては「???」だ。
そして、「ちぇすとぉ~」とユリアが俺と先輩が握っている手を目掛けて手刀を放ち切り離す。
「「イッタ!!!」」
「ユリア、何するのよ!」
「そちらこそ他人の旦那に手を出しやがるんじゃないですよ!」
「いや、旦那って……ユリア……さん、聞いてます?」
「はい。ちゃんと聞こえてますよ。旦那様の声は聴き逃しませんから!」
「なら、もう一度言うけど、俺はユリアの旦那様じゃないからね」
「遅かれ早かれそうなるんですから、別にいいじゃないですか」
「ん~でも、ここには既に『旦那様』と呼ばれている伯爵様がいるからね」
「分かりました。では、もう一人の旦那様がいなくなれば問題解決ですね。では「ちょ、ちょっと待とうか」……はい、旦那様」
スカートの裾から何かキラリと光る物を取り出し部屋から出ようとするユリアを慌てて抑えて、部屋の中へと引き戻す。
「ユ、ユリアさん? 今、何をしようとしたのかな?」
「何って旦那様と呼ばれる方が二人いるのは複雑なら、片方がいなくなれば問題は解決されますよね? ですから「よぉ~し、少し落ち着こうか、ね?」……私は落ち着いていますよ? 旦那様こそどうしてそんなに汗をかいているのでしょうか?」
「あ……ふぅ~そうだ。落ち着け、落ち着けぇ俺!」
「旦那様? やはり「あ~だから、待って! お願いだから、待って!」……はい、待つのは得意ですから。いつまでも待ちますよ。ずっと……」
そう言って俺に和やかな笑顔を向けているが、さっき伯爵様を始末しに行こうとしてたよねとは言えず、固まってしまうがなんとか再起動しユリアの手を両手で握りジッと目を見詰める。
「だ、旦那様……皆が見ています。ですが、それが旦那様のお望みでしたら……覚悟を決めました。さ、どうぞ」
「え?」
ユリアは何を思ったのか、そう言うと黙って目を閉じ、少しだけ唇を突き出すような仕草をするので、俺は困ってしまい先輩に助けを求めると「ハン!」と言った感じで眉間に皺を寄せた顔を横に向け腕を組んでつま先で床をタンタンと鳴らし不機嫌さを微塵も隠そうともしない。
俺は嘆息した後、ユリアの両肩を掴んでソッと離す。
「……意気地無し」
「え? いや、なんでそうなるの?」
「なんでもないです。で、旦那様と呼ぶなと言うのなら、なんとお呼びすればよろしいのですか?」
「いや、普通にヒロでいいよ」
「……」
「え? 何か不満でも?」
「それだと、他の人と同じじゃないですか!」
「それが何か?」
「もういいです! でも、旦那様呼びは変えませんから!」
「でも、それじゃ伯爵様は「伯爵様と呼びますから」……はぁ、分かったよ」
「はい、旦那様!」
ユリアを矯正することは諦めて、改めて先輩と王都行きの計画を立てる。
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