閑話 とある通販サイトの物流倉庫でのお話
本編に入る前に少しだけ、設定に疑問を感じたので……
『お前が言うな!』と言われると思いますが、そこはなんとか目を瞑って……は読めないので目をガッと見開き読んで頂けたらと思います。
では、閑話をお読み下さい。
~とある通販サイトの物流倉庫にて~
今日も目の前を流れていく梱包された荷物を監視しているオペレーターの元へ「よぉ!」と声を掛けて来たのは、交代要員の先輩社員だ。
「あ、先輩。お疲れ様です」
「おう、お疲れさん。で、どうよ」
「はい、今の所特に問題はありません。荷物もスムーズに流れています」
「そうか……まあ、退屈だがこれで、おまんまが食えるんだから文句は言えないよな」
「そうですね。今は全てがシステムで管理されていますからね。正直俺達が必要なのかなとさえ思えますよ」
「まあな。だけどな、さすがに全部をシステム化したとしてもだ。『ガチャン』ほら、あんな風に仕分け出来ない荷物がレーンから外されるだろ」
「あ~たまにありますね」
「そうだ。そういう時こそ俺達の数少ない出番だ」
「あ、じゃあ交代ついでに対処して来ますね」
「おう、ありがとうな」
「いえ……え?」
「ん? どうした?」
「せ、先輩……見ました?」
「何をだ? モニターなら見てたぞ」
「いえ、そうじゃなくて……あれ」
「あ?」
交代の序でに仕分けで『宛先不明』として弾かれた荷物の様子を見に行こうとした後輩オペレーターは、その場に向かおうとした瞬間にその荷物が消えてしまった現場を目撃し驚いてしまった。
そして、それを先輩オペレーターに伝えるが、その瞬間は見ていないと言われてしまい、どうしたものかと考える。
後輩オペレーターは監視モニターを確認すべく元いた場所に戻ろうとするが、先輩オペレーターは「気にするな」と言う。
「先輩、本気ですか? 俺の目の前で荷物が消えたんですよ! 絶対におかしいでしょ!」
「証拠は?」
「え?」
「だから、お前の言うその『荷物が消えた』証拠はどこにあるんだ?」
「……それはモニターを確認すれば分かることです。直ぐに確認しましょう」
「無理だな」
「え?」
後輩オペレーターは先輩オペレーターに「無理だ」と言われ呆然とする。
「いや、それはおかしいでしょ。だって、監視カメラはあちこちにあるじゃないですか! それにさっきみたいに『宛先不明』の荷物が送られていく先にも監視カメラはあるじゃないですか」
「あ~あれな。ありゃ、動いていない」
「へ?」
「そういう訳でお前が言う『荷物消失』の事実を確認出来る証拠はない……だから、忘れろ」
「いやいやいや、それは無理でしょ。だって、現に荷物が消えて送り主に届いていないってことになったら会社としてマズいことになりますよね」
「何が届いていないって?」
「え? だから、『宛先不明』でレーンから外された荷物ですよ」
「……」
「先輩?」
後輩オペレーターの言葉に先輩オペレーターがキーボードを操作すると「それなら、もう『配達済み』になっているぞ」と言う。
「はい? いやいやいや、ついさっき消えたんですよ? なんでそれが既に『配送済み』なんですか!」
「……」
「先輩、何か知っているんですよね?」
「……」
「先輩?」
「……そうだな。そろそろお前も知っといた方がいいか」
「なんのことですか?」
「まあ、聞け。いいか……」
先輩オペレーターが監視モニターを見ながら、後輩オペレーターに背を向けたまま説明しだしたが、一度聞いただけでは納得出来る話ではなかった。
その先輩オペレーターが言うには、さっき後輩オペレーターが見たような現象は数年ほど前から発生していたらしい。
だが、荷物の送付先からの苦情もない。そもそも宛先不明で仕分けされたのだから、その送付先があるかないかと言えば、不明なのだ。
そして、その荷物の送り主からも「相手に届いていない」という苦情もない。
だが、実際に配送していないから『配送事故』として扱おうとしたが、システム上では先程と同じ様に『配送済み』となっているため、これも無理となる。
ならば、商品の代金はどうなっているのかと確認もしてみたが、どの荷物に対しても損害はなく、全てがキレイに支払われている為、事件として扱うコトも出来ないために会社としても黙認することになったと言う。
「ハァ~なんとなく分かりました。要は誰にも損害がないのであれば、会社としても目を瞑ろうと……そういうことなんですね」
「まあ、簡単に言えばそう言うことなんだが、コレがウチだけだと思うか?」
「え?」
「その様子だと知らないみたいだな。ま、早い話がウチだけじゃなく大手通販サイトじゃもう珍しくもない話なんだよ」
「え? えぇ! マジですか!」
「マジだ。実際に国家規模で調査が進められていると言うのも聞いている」
「聞いてないよぉ~!!!」
「まあ、そういう訳だから、お前も気軽に吹聴して回るなよ」
「……したら、どうなりますか?」
「……お前とは一緒に働きたいと思っている」
「せ、先輩?」
「分かるだろ? だから、絶対に言うなよ……俺に言えるのはそれだけだ。例え、荷物の購入者があの『空田広志』だとしてもだ」
「えぇ! それって特ダネじゃないですか! SNSに上げたらバズるの間違いなしですよ!」
「そうだろうな」
「そうだろうな……って、先輩?」
「確かにバズるだろうな。だが、その先の人生はどうなると思う?」
「どうなるって……そりゃ、色んな所から取材の申し込みが……って、違うんですか?」
後輩オペレーターはあの『空田広志』の名前を聞き、この件をSNSに投稿すればバズること間違いなしと興奮気味に話すが、先輩オペレーターは逆に冷静だ。
そんな様子に不安を感じ後輩オペレーターが恐る恐る先輩オペレーターに問い掛ければ、「来るのは取材が目的の連中じゃないだろうな」とだけ告げる。
「え?」
「だから、さっき言っただろ。この件は国家規模だと……」
「ってことは?」
「ああ、お前だけでなくその投稿を見た連中全てがなんらかの処罰、あるいは処罰が下されるだろうな」
「またまたぁ~冗談がキツいっすよ先輩……先輩?」
「すまんな。俺が言えるのはここまでだ。だが、俺は忠告したからな。じゃ、お疲れ様。いいか馬鹿なことは考えるなよ? お前に教えることはまだまだたくさんあるんだからな」
「……お先に失礼します」
さっきまでは「これでバズるのは間違いない」とやや興奮気味だった後輩オペレーターは背中を向けたままの先輩オペレーターと挨拶を交わすと「あんなの見なきゃよかった」と俯き気味に物流倉庫から出て行くのだった。




