第30話 お前の血は何色だ!
「オジー、大丈夫?」
「……ヒロ様、私はどうすればいいのでしょうか?」
「そりゃ離婚一択でしょ」
「ユリア、そうは言いますが例えニセモノの家族だとしても今まで家族として過ごしてきた日々が私にはあるんです。そう簡単にすぐに答を出せません……情けないですね」
「ふむ……」
伯爵様からの手解きを受け、漸く俺達の話も聞いてくれるようになり全てを理解したオジーはソファの背もたれに背中を預け、天井を見上げながら俺にどうしたらいいかと聞いてくるが、それに対しユリアは即離婚だと口にする。
オジーもそれしかないだろうと考えてはいるみたいだが、問題は奥様達だけでなく今まで家族と信じて過ごしてきた子供達のことを思い、離婚へと踏み出せずにいる様だ。
そんなオジーの様子を見て伯爵様も腕組みをして目を閉じて何かいい案がないかと考えている様だ。
そして俺はと言えば、血縁を証明するなら一般的には血液型の鑑定だよなと思い、そういったことが可能なのかと伯爵様に問えば「それはなんだ?」と逆に問い返されてしまった。
なので「これこれこういうもので……」と輸血のことも交えて話したが「ないな」と一蹴された。
俺もまさかと思い更に追求してみたが、まず「他人の血を入れるなど言語道断だ!」と言われたので、なら多量出血にはどう対応しているのかと聞けば「治癒魔法があるからな」と教えられた。
正確には出血した箇所を治癒魔法で塞ぎ、その後は造血作用のある薬を服用するらしい。
「じゃあ、誰も自分が何型かは知らない……と、そういうことなんですね」
「ああ、そうだな。ちなみにだが、客の中には口癖の様に『私、O型だからさぁ』と言う者もいたそうだが、当時の者は何を言っているのか誰も分からなかったと書かれていたのをどこかで読んだ記憶がうっすらとあるな」
「あ~有り得なくはないですね」
誰も血液型を気にしてはいないし、そもそも血液型というモノが存在しないことは分かった。
ならば、親子関係の証明はどうやるのかと問えば「信じるしかない」と返された。
「え? ってことは、『この子はあなたの子供です』と言われたら、それを証明する証拠もなければ、反論する証拠もないってことですか?」
「ああ、そうなるな」
「でも、『鑑定魔法』とかでそういうのは分かるんじゃないんですか?」
「ん? ヒロ殿は何を言っているのだ。鑑定魔法は確かにあるが、人に対しては無効だぞ」
「マジ?」
「マジだ」
「え~! でもですよ、人には魔力があるんですよね? なら、その魔力で血縁関係が分かったりしないんですか? ほら、血統魔法とか……ないですか?」
「ないな」
「あぁ~…………」
「なんてこった! 手詰まりじゃないか!」と思ったが、ふと「ないなら取り寄せればいいだけじゃん」とスマホを取り出そうとして、ここじゃマズいと思い直す。
「オジーちょっと待ってて! 絶対だよ!」
「あ……はい。お待ちしております」
「直ぐに戻るからね」
「はい……」
俺はその場から離れ、トイレへと急ぐ。
「よし! 『血液型判定キット』だ。これさえあれば……」
インベントリに届けられた血液型判定キットをいくつか複製してからトイレから出る。
そして「あ!」と大事なことを思い出す。
「そもそも血液の構成が違っていたらどうなんだ? ここの人達の血は赤いのかな?」とか色んな思いが脳裏に浮かんだが、先ずは確認しないことには始まらないと「よし!」と気合いを入れてオジーの元へと戻る。
検査キットを手に皆の元に戻ると俺は自分の指先を少しだけ切り、検査キットの上に垂らす。
そんな俺の様子を見て皆が固唾を呑んでいるのが分かる。
そして伯爵様は指先を指して「ひ、ヒロ殿……な、何をしているのかね?」と聞かれたので「何って血液型を調べているんです」とだけ答えれば「けつえきがた?」と不思議そうな顔をしている。
血を垂らした検査キットを見て皆に分かる様に持ち上げて見せる。
「これで俺の血液型がA型だと分かる」
「「「……」」」
「だから、皆も俺と同じ様に血液型を調べてみよう」
「それは私もか?」
「はい、もちろんです」
「……ホントに?」
「はい、ホントです」
「……マジで?」
「マジです」
「……」
「では、先ずは伯爵様から、お願いします」
「い、痛くしないでくれよ」
「大丈夫です。チクッとするだけですから」
「ホントに?」
「ええ、ホントです」
「ホントに痛くないんだよな」
「……」
「ヒロ殿?」
「少しチクッとするだけです。ホンのちょっとですから」
「……優しくしてね」
「言い方! じゃ、しますね。あ!」
「え? あ!」
伯爵様にいくらチクッとするだけだからと言い聞かせても、なかなか覚悟を決めてくれなかったので、指先を持って刺す前に「あ!」と言って伯爵様の意識を逸らしてから、伯爵様の指先をちょっとだけ刺して新しい検査キットの上に伯爵様の血を垂らす。
「よかった。ちゃんと赤いや」
「何を言う。血が赤いのは当たり前であろう」
「そうなんですね」
「ああ、そうだ……ヒロ殿……」
「分かってます。さっきのことは誰にも言いません。オジーもユリアもいいよね?」
「はい、もちろんです」
「私も私も! でも、さっきの『優しくしてね』は脳裏に焼き付いてしまいました……」
「ユリア、他言は「分かってます! でも、たまに思い出すくらいはいいですよね?」……伯爵様……」
「し、仕方ない。頭の中まではどうしようも出来ないからな。だが……分かっているな?」
「はい、もちろんです! やった! うふふ……」
「「「……」」」
伯爵様の言葉に了解の意を示したユリアだが、その様子は両頬を赤く染め何かに思いを馳せているように時々「ほぉ~尊い……」と口にするのを見て「俺は腐ってなんかないんだから!」と言いたかったが、今言うとややこしくなりそうだったので止めておく。
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