第28話 思っていたのと違う
オジーを送り届けてから今日で一週間が経った。
俺の予測ではそろそろオジーが助けを求めて来る頃だ……だけど、もうお昼を回っている。
「おかしい……」
『ピ?』
「ね、おかしいよね」
『主ぃ~?』
「だってさ、おかしいよね。宰相の奥さん達は『もっと寄越しなさい!』って宰相に迫ったんだよ。なら、オジーの奥さん達もそうなってもおかしくないよね? 何か間違ったのかな?」
『……呆れたぁ~』
「そんなこと言うなよぉ~セツゥ~ちょっとした茶目っ気だからさぁ~」
『もうそんなに心配なら、ぷぅに聞いてみようかぁ~』
「あ、そうか! うん、そうしてお願い!」
『分かったぁ~ちょっと待っててねぇ~』
セツをテーブルの上に載せると、セツは無言になるが、時折プルプル震えている。
セツはぷぅとのやり取りが終わった様で、余程疲れたのかその身体を弛緩させビロ~ンとテーブルの上で平たくなった後にキュポンとまた元の球状に戻ると『主ぃ~終わったよぉ~』と俺に声を掛ける。
『えっとね、オジーは幸せいっぱいなんだってぇ~』
「はい?」
セツの言葉に俺は自分の耳を疑った。
俺の筋書きとしてはこうだった。
オジーの奥さん達が渡したコスメを使う。
いつもと違いキレイになった奥さん達も変わった自分の容姿に驚く。
ご近所さん達が、奥さん達の変貌振りに驚くと共に理由を追及する。
奥さん達は追求に負け、ご近所さん達に「これだけしかないから」と少量ずつ渡す。
そして、ついには底を尽きオジーに「どうにかして!」と頼み込む。
オジーは奥さん達の猛攻に耐えきれず俺に助けを求めて来る。
そう考えていたのに……一体、どういうことだろうか。
考えていてもしょうがない。
「セツ、確かめに行こう」
『えぇ~』
「そういうなよ。なあ、行こうよ」
『……』
「セツ?」
『……』
俺がオジーに仕掛けた時限式のイタズラが不発に終わったことを残念がっていたら、どうやらセツには呆れられてしまったようだ。
でもさ、ちょっとくらいいいじゃない。
だって、ハーレム作っているなんて聞いてないしさ。
ちょっと悔しいと思ってもいいよね。
とか、思っていたけど俺はオジーに言われたように人を羨んでいるけど、自分では動けないからオジーみたいな成功者を羨ましいから妬ましいと変換してしまった。
でもさ……一人に決めることは出来ないし、かと言って複数人を相手にするのは疲れるし、多方面に気を使うのは多分出来ないし……と、思ってもやっぱりオジーがうらやまけしからん。
「う~ん、この気持ちをどこにぶつければいいんだろう。ねぇセツ」
『知らないぃ~』
~オジーの自宅~
「ふふふ、ヒロ様はああ言っていたけど、何も恐れることなんかなかったんだ。こんなにも私は幸せを実感出来ているんだから!」
「邪魔!」
「あ、はい……」
「ちょっと、ゴミ踏んでる!」
「え? あ、ホントだ」
「拾わないの?」
「ご、ごめんなさい。拾います! 直ぐに拾います!」
「で、皿洗いは終わったの?」
「え?」
「え? じゃなくて、皿洗いをお願いしたでしょ」
「あ、いや……それは昨夜の分では?」
「はぁ? だから何? 溜まった汚れた食器は放っておけばキレイになるの?」
「……なりません」
「だよね?」
ソファに寝っ転がっていたオジーは妻であるモモに「邪魔!」とソファから退かされ立たされると、その足でゴミを踏んでいることを指摘され慌てる。
だが、直立不動のオジーに対しモモは皿洗いが終わったのかと聞いてくる。
オジーは言われたことが納得出来ずに「頼まれた皿洗いなら昨夜済ませた」と答えれば、「はぁ?」と不機嫌な顔になり「だから?」とオジーに凄んで見せれば「負けるが勝ち」を地で行くオジーだった。
言われた通りに皿を洗うオジーは「おかしい、こんなハズでは……」と呟いている。
このままではヒロに言われた通りじゃないかと背筋に冷たいモノが流れブルッとする。
「いや、違う! 今日はたまたまモモの機嫌が悪かっただけだ。きっと、そうに違いない。だって、久々に会った時には、あんなに熱烈に……ん? あれ?」
オジーは家族と久々に会った時のことを思い出す。
「確か……玄関を開けた時に『あ、帰ったんだ。おかえり』と言われたな」と思い出し、自分の理想とは違っていたことに今更ながら気付く。
「いやいやいや、待て待て! これは多分、照れ隠しだ。そうだ、そうに違いない。だって、子供達も……『誰?』って言われた様な気がする」
オジーはブルルと首を何度も横に振り、記憶を振り払うと共に詳細な記憶を呼び起こそうと頑張る。
「家に入ったら、モモがいて……キキがいて……ルルもいた。でも、誰も立って抱き着いてきたりとかはなかった様な……ソファから立ち上がることもなかったな。あれ? おかしいな……どうしてだろう……目から水が……もしかして泡が目に入ったのかな?」
「あなた?」
オジーが目を拭っているとルルがオジーを心配そうに見ているのに気付いた。
「なんでもないよ。どうしたんだいルル」
「ううん。なんでもないなら……」
「ん?」
「それが終わったら、洗濯物を取込んだら畳んでタンスにしまってね。お願いね」
「え?」
「え? って、何?」
「いや……でも……」
「でも?」
「なんでもありません!」
「そ。じゃあ、お願いね」
「はい!」
皿洗いを終わらせたオジーが庭に干した洗濯物を取り込み畳んでいると、自然に目に水が溜まり思わず近くにあったタオルで拭おうとしたら「キャァ~!」と悲鳴が上がる。
「え?」とその声がした方を振り向くとキキがオジーが持っていたタオルを奪い取り「これ、私の! 使わないで!」と叫ぶ。
「あ、ごめん。でも、ちょっとくらい「ちょっと?」……え?」
「ねえ、聞いてる? これはワタシのなの! もう、もう一回洗わないとダメじゃない! はい、お願いね」
「え?」
「え? って何?」
「いや、なんでもう一度洗うの? だって、汚くはないよね?」
「は? 何言ってんの? さっき、オジーが使ったでしょ。使ったわよね?」
「使うったって、ちょっと拭ったくらいで……」
「でも、使ったんでしょ?」
「……はい」
「だから、お願いって言ってるの」
「……それは洗えってこと?」
「そうよ。他に何があるの?」
「いえ……」
「あ、それが終わったら、そろそろ夕飯の準備をお願いね」
「……」
「オジー、聞こえてる?」
「……はい」
「じゃ、お願いね」
キキは踵を返すとリビングでソファに寝転がっている二人の元にいき楽しそうに喋っている。
「おかしい……どうして、こうなった?」
いつの間にか目尻に溜まっていた水は頬を伝い流し台にポタリ……ポタリと落ちていたが、やがて一筋の糸の様に溢れ出す。
『オジー、帰ろう』
「ぷぅ……そうだな、帰ろうか」
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