第27話 それを左に受け流すぅ~
「なあ、そろそろランクアップする気はないのか?」
「ありませんけど」
「ハァ~ソロでこれだけの成果を出し、且つ獲物もほとんど無傷で余すことなくほぼ全ての素材を持ち帰ることが出来るお前をランクアップさせないのも色々と面倒なんだよ」
「どういうこと?」
「いや、冒険者ギルドとしては助かっているのは事実だ。正直、感謝しかない」
「なら……」
「まあ、聞け」
「はぁ」
ギルマスに連行され解体場で仕留めた獲物を放出すると顔を青くしたギルマスが嘆息しながらそんなことを俺に提案する。
確か俺のランクは初回登録時のFランクから、なんだかんだでDランクにまで上がっていたが俺が受けている依頼はDランク相当ではなく、その二つ上のBランク相当の依頼が殆どだった。
実際にはほぼ塩漬け依頼だったが、上位ランク者……正しくは上位ランク者が率いるパーティーから苦情が殺到しているらしい。
そして狩ってくる素材の状態が今までとは比較にならないくらい素晴らしいので指名依頼を出したいとも言われているが、俺のランクでは指名依頼は受け付けられないので「それはどういうことだ!」と苦情が殺到しているらしい。
「そういう訳で、これに署名捺印よろしく」
「え~、ん?」
「どうした。早く署名しろ。印がなければ拇印でいいぞ」
「いや、そうじゃなくて……えい!」
「あ! 何をする! せっかく書いたのに……」
「まったく油断も隙も無い。いい加減、諦めて下さい」
「ぐぬぬ……」
ギルマスが俺に署名しろと差し出した書類はパッと見で『書いちゃダメ! 絶対!』と体全体が拒否反応を示すモノだったので俺は直ぐにその紙を二つに引き裂く。
「……冗談はここまでとしてだ」
「絶対にウソでしょ。署名欄以外を他の文書で隠すとか巧妙な罠まで仕掛けといて」
「ぐ……だが、ランクアップや指名依頼の話は本当だぞ。それに今なら、ランクアップに必要な試験も免除してやろう。それと手続きに必要な料金も免除だ。どうだ?」
「……」
「ぐ……そうか。どうしても首を縦に振る気はないか。じゃあ、しょうがない。わ「いりませんから! 絶対に! もらっても生ゴミの日に処分しますから!」たし……それはちょっとヒドくはないか?」
「だって、俺はずっといらないって言ってますよ。なのに……」
「だが、同郷の女には振られたのだろう? なら、私がその悲しみを慰めてやろうと手を差し伸べているのを黙って取るのが道理というものだろう」
「は?」
「ん? 違ったか? 男が振られた直後にその弱みにつけ込めば、男は優しく慰めてくれた女性に思わず色んなコトするものだと……ケリーに聞いたが?」
「ケリーさん……ハァ~」
どうして俺が先輩達に振られた話がギルマスにまで伝わっているのか検証は後でするにして、一昔前の恋愛モノの常套手段とでも言えることまで客から伝わっているのだろうか、それとも世界を問わず人類として共通項なのだろうかと思案してみても答が出るはずもなく今はない胸を一生懸命寄せ集めてなんとか俺をその気にさせようとしているギルマスの頭にチョップをかまし「場所を考えて下さい」と言えば、「場所を代えればいいのか?」と頭をさすりながらそんなことを言い出すが「場所の問題ではない」とだけ答える。
「ふふふ、ならば今日はこれくらいにしておこうか」
「ああ、そうして下さい」
「まあ、そう睨むな。ちょっとした冗談じゃないか」
「じゃ、査定宜しく御願いしますね」
「そうだな。頼んだぞ」
ギルマスに並べた獲物の買い取り査定を頼むとギルマスは近くの職員に声を掛け、解体場を後にすると「それはさておき」とギルマスが話しかけてくる。
「ホントにランクアップする気はないのか?」
「ないです」
「なんでだ? 冒険者なら誰でも高みを目指すものだろ」
「ホント、俺には必要ないんで」
「ホントにそれでいいのか?」
「いいんです! もう、しつこいなぁ~」
「だがな、ホントに指名依頼ともなれば高額の依頼が受けられるんだぞ」
「それにギルドも手数料がザックザックと」
「そうそう、何もしなくても依頼を右から左に流すだけで……って、何を言わせる!」
「でも、冒険者ギルドの仕事なんてそんなもんでしょ」
「違う! いや、違わないが、それだけじゃないぞ」
「分かってますよ。それくらい……ギルマスが俺に絡んでくるくらいにはヒマしているってことくらいはね」
「失礼な! 私はこれでも……」
しつこくランクアップを要求してきたギルマスを軽く遇いながら、報酬は後日と言い渡し冒険者ギルドを後にする。
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