第26話 助けて、ギルマスゥ~!
「オジー、持とうか?」
「いいえ。お構いなく」
「ホントに遠慮しないでよ」
「いいえ、本当に結構です!」
「信用無いなぁ~」
「あると思っているんですか」
「ヒドッ!」
「自覚はないんですか?」
「なんのことかな?」
「ハァ~もういいです。もう、家も見えて来たのでここら辺でお引き取り下さい」
「え~。ね、ちなみにどの家かな?」
「……」
御屋敷を出てしばらく歩いたが、俺の呼び掛けにオジーは淡々と答えるのみで大して会話が弾むこともなく目的地であるオジーの自宅近くにまで来たと言うことでオジーの目が俺に「帰れ!」と訴える。
「でも、ちょっと挨拶く「結構です!」らいはって……もう、分かったよ。じゃ、一週間後にね」
「はい? 休暇は二ヶ月戴いたと思ってましたが?」
「うん、そうだよ」
「では、一週間後と言うのは?」
「オジーが俺に会いたくなるのがそれくらいかなと思ってさ」
「はい?」
「ひょっとしたら、もっと早くなるかもね」
「……ふふふ、ヒロ様。いくら社畜と化した私でも久々に家族と会うことが出来、ゆっくり羽を伸ばせると言うのに……それは有り得ません!」
「なるほど。でもね、俺には見える、見えるんだよ! 久々に帰って来たオジーとの再会に喜んでも次の日には『なんで家にいるの?』と蔑まされ『掃除の邪魔だから』と部屋の隅っこに追いやられ、果てには『どっか行って』と家から追い出されるオジーの姿がさ」
「な、なにをバカなことを! 大体、私が邪険にされることなど……」
「どうしたの? もしかして自信がないのかな? ま、そりゃそうだよね。亭主元気で留守がいいってのが世の奥様達の本音だしね」
「うちの妻達に限ってそんなことは……」
オジーは俺の言葉に反論しようとするが、考えれば考えるほど当てはまることを思い出したのか、尻すぼみに声が小さくなる。
まあ、奥さん達との関係は横に置いてもオジーは俺の所に来ざるを得ない。
悪いけど、オジー一人にいい思いなんてさせるもんか! と思っているとセツがジト目(目はないけど雰囲気的に)で俺を見ている。
『主ぃ~ちょっとオジーが可愛そうだよ』
「いいの! だってさ、今晩なんか多分だけど組んず解れつの大乱闘が繰り広げられるんだよ。そんなうらやまけしからんことが待っているんだから、少しくらいいいじゃない」
『主はぁ~それを自分で放棄したんでしょぉ~』
「……昔のことだし」
『ちょっと主のこと嫌いになりそう~」
「せ、セツ……ウソだよね?」
『なら、オジーにちゃんと謝ってねぇ~』
「ぐ……」
俺の目の前で「いや、そんなことは……でも、前にも……」とかそんなことをぶつくさと言いながら疑心暗鬼に陥っているオジーの肩を掴むと「ごめんなさい」と頭を下げる。
「ひ、ヒロ様?」
「ちょっと揶揄いすぎたね。はい、これ家族で食べてね。それとオジーにはこれがいいよね」
そう言いながら先輩が買い込んでいたデパ地下のお菓子をいくつかとオジーにいつもの発泡酒をダースで渡し踵を返す。
「ヒロ様、ありがとうございます」
「いいよ、家族を大事にね」
「はい!」
踵を返した俺の背にオジーからの感謝の言葉を受けながら、俺は御屋敷へ帰る。
部屋に入ると『主ぃ~やれば出来るじゃないのぉ~』とセツからお褒めの言葉を戴くが時限式の仕掛けについては言いそびれてしまったのは秘密だ。
そして「あれ?」と考える。
「これってひょっとしなくても間違いなく俺も騒動に巻き込まれるんじゃないの?」と頭を過る。
「ま、それならそれで、より多くの人を巻き込めばいいだけの話かな。それまではゆっくりと大人しく冒険者活動でもしてようかな。あ! そうだよ、忘れてた」
森から戻ったらオジーがいたから忘れていたけど、討伐した魔物を冒険者ギルドに引き取って貰いにと再び、御屋敷から出る。
「こんにちは~」
「ヒロ様、どうされました?」
「依頼達成の報告に来ました」
「分かりました。では、出して下さい」
「え?」
「え?」
「こんなところで出すの?」
「ええ、お願いします」
「いや、でも……ちょっとここじゃ……」
「そうですか。では、依頼不達成と言うことで」
「あ、違うよ、違うからね。ただ、ここじゃマズいってだけで……」
「何がですか? 確か、そんなに多くはないですよね?」
「いや、でも……」
「いいですから、私が許可しますから! 早く出して下さい!」
「ホントにいいの?」
「クドいです!」
「……分かったよ。でも、絶対に俺のせいにしないでよ」
「ふふふ、私も冒険者ギルドではそれなりの地位に就いてますからね。ですから、遠慮無くどうぞ」
「でもなぁ~」
「まだ、何かあるんですか!」
「そう怒鳴らないでよ。たださ……」
「ただ? なんですか?」
「この買い取りカウンターには乗らないかなって」
「え?」
「え?」
「……念の為にお聞きしますが、依頼達成の報告ですよね?」
「そうだよ」
「……では、その依頼書を見せて戴いても?」
「はい、これ」
「え? これ全部ですか?」
「そう。ね? 載らないでしょ? ここじゃムリだよね?」
「ギルマスゥ~!」
「え?」
達成した依頼がどれかとケリーさんが言うのでインベントリから出した依頼書の束をバサッと受付カウンターの上に置けば、ケリーさんが涙声で奥に向かって「ギルマスゥ~!」と助けを求め大声を出せば、カチャリと扉の開く音がして、その向こうからギルマスが顔を覗かせる。
「お前か……で、どうした?」
「ヒロ様が! ヒロ様が私を虐めるんですぅ~」
「何? おい、ちょっと話を聞かせてもらおうか? あぁ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。なんでそんな話になるの?」
「だって……ここじゃ見せられないものを出すって……」
「おい、ヒロ。お前何を出そうとしていたんだ? もしかして、その粗末なモノを「ま、待って! 濡れ衣だ! 冤罪だ!」……ま、そんなんじゃ胸張って見せられないだろうがな。で、ホントのことを話してもらおうか?」
「……見たこともないくせに」
「あ? なんか言ったか?」
「いえ、なんでもありません!」
「ケリーも気が済んだなら、揶揄うのを止めてちゃんと話せ」
「え?」
「はい、えっとじゃあ……」
「え?」
ケリーさんがこれまでの経緯をこと細かにギルマスに話せば、ギルマスは「お前が疑いたくなる気持ちは分からなくもないが」と嘆息しながらケリーさんから引き取り、俺を解体場へと連行する。
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