第21話 とてもお困りです
「あの~せ……ウララ、これはどういうことでしょうか?」
「……」
「ウララ……さん?」
「いいから! ギュッとするの!」
「いや、でも……」
「いいから! それがご褒美なんだから、いいの!」
「え?」
「早く!」
「あ、はい……いいのかな、ホントに……」
「キャッ!」
先輩がいきなり俺に抱き着いてきたので、俺はどうしようもなく両手を上に上げるが、先輩はギュッとしてと言ってくる。
それがご褒美だと言うけれど、これって俺に対してもある意味ご褒美だよな……と、思いいいのかなと躊躇していると先輩からは「いいから、早く!」と急かされ言われるままに先輩をその腕の中に包み込むようにギュッとすれば先輩は頬を赤く染め、嫌がってはないようなのでセーフかなと自分を納得させる。
そしてふと思い出したので先輩に確認してみる。
「あの、さっき出来たと言ってましたけど、もう量産化出来そうなんですか?」
「え?」
「いや、だからさっきウララが出来た! って、言ってたじゃないですか。流石にオリジナルそのものは難しいでしょうから、廉価版が出来たってことなんでしょ」
「え?」
「え?」
先輩は確かに「出来たわよ!」と叫びながら部屋に飛び込んできた。
だから、俺は先輩にシャンプーやトリートメントの量産の目処が立ったものだと思い確認したのだが、どうも様子がおかしい。
「あの、『出来た』って言いましたよね」
「言ったわよ」
「ソレってシャンプーのことじゃ「違うわよ」……えぇ!」
「だって、シリコンなんて作れないし、どうやって混ぜ込むのかも分からないのに作れる訳ないでしょ。もう、しっかりしてよ」
「え、いや……それは分かりますよ。だから、ダウングレードした物を作っていたんじゃないんですか?」
「え?」
「え?」
どうにも先輩との会話に齟齬を感じるので、もう一度ちゃんと聞いてみる。
「あの……出来たって何が出来たんですか?」
「何ってミシンに決まっているじゃないの」
「え?」
「え?」
先輩はミシンが出来たと言うけれど、先輩は確か奥様と一緒にシャンプー類の開発に従事していたハズなんだけどと腕を組み考えてみる。
「ヒロ? 大丈夫?」
「ん~俺の思い違いじゃなければ先輩は奥様達と一緒にシャンプーの開発をしていたのでは?」
「うん、それも一つね」
「え?」
「え?」
先輩はシャンプーの開発も全体の中の一つだと指を立てる。
そして、それはコスメ関連の他にも下着の開発も携わっているのでミシンの開発も最重要課題だったと言うのだ。
「あ~そういうことですか」
「うん、そういうこと」
「じゃ、シャンプーは?」
「だから、シリコンとかがまだなんだ。どうしようか考え中なの」
「そこはパスしてもいいんじゃないですか」
「でも、それがないとツヤツヤにならないわよ」
「ん~そうかもしれませんが、今現在で出来る物を提供しないと……暴動が起こりますよ」
「え?」
「え?」
俺は先輩に王都でも、この御屋敷内で起きている問題が宰相を中心に起きていることを伝え、シャンプー類の開発が最重要課題であることを改めて先輩に説明すると共に先ずは先輩が使っている最上級品でなくても植物性由来の材料を使ったものであれば、水質汚染とか気にしないでもいいんじゃないかと伝える。
「でも、それって大丈夫なの?」
「さあ?」
「さあ? って、ちょっと無責任じゃないの」
「でも、誰もシリコン入りなんて知らないからいいんじゃないですか」
「でもなぁ~」
「まあ、その内出来たらってことで納得して下さい」
「そうね。ヒロの言うことも分かるけど……」
「先ずは世の女性を安心させるためだということで納得して下さい」
「……分かったわよ」
「ありがとうございます! これで宰相様も救われるでしょう」
「お礼はいいけど、どうして宰相さんが関係するの?」
「実は……」
先輩には最優先でシャンプー類の開発をお願いし、宰相がどういう目に遭っているのかも話すと「そんな人、助ける必要ないと思う」と先輩は俺が侮辱されたと怒ってくれるのだが、既に宰相家族の女性を中心にシャンプーの噂が広まっているらしく宰相も日々窶れているとオジーから連絡を受ければ、可愛そうに思えてくる。
「起こってくれるのは嬉しいけど、ここは客の力を見せつける為にも必要なことだから、どうか一つお願いします」
「分かったわよ。それが私達客の地位向上に役立つのなら……」
「ありがとうございます!」
「それはいいけど……ねえ」
「なんです?」
「客同士が結ばれた場合は、その子供も客扱いになるのかな?」
「へ?」
「もう、鈍いわね。だから、ヒロと私が一緒になって産まれてくる子は客になるのかな? って話よ。聞いてる?」
「え? いや、聞いてますけど……なんで俺とウララなんです?」
「……」
「もしもし、聞いてます?」
「バカ! 分かるでしょ!」
「え?」
「え?」
先輩は俺に向かってバカと言うが、何を起こっているのだろうか? と首を傾げてしまうがまさか! と頭を過る。
だけど、やっぱり『そんなハズは』と思ってしまう。
でも、俺の目の前で両手を握りしめ、恥ずかしさからなのか、それとも俺に対する怒りなのかは分からないが、先輩は頬を赤らめ目には涙を溜めている。
俺はそんな先輩の様子を見て『ここで間違った答を出すと非常にマズいことになる』と言うことだけは理解出来た。
でも、その肝心の正解が俺には分からないと困っていると袖口をチョイチョイと引かれたので、その方向を見るとユリアがニヤニヤしながら「お困りのようですね」と耳元で言う。
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