第8話 やっぱり、いるよね
出来れば儲けものくらいの軽い気持ちで『複製』と呟いてみると、インベントリの中に保存しているコンビニ袋が中身ごと複製されたようで、『コンビニ袋(発泡酒×2、コンビニおにぎり(ツナマヨ、梅干し)、ポテサラ)×2』となっていた。
「ふ……ふふふ……はぁ~っはっはっはっ!」
思わずどこぞの悪役っぽく高笑いが出てしまったが、これはしょうがないというものだろう。なんせ、これから米や発泡酒の欠乏症に悩むことがなくなったのだから。
「でも、まてよ」と、ふと不安が沸き上がって来る。「腐るってことはないよな」と。
試しにコンビニ袋を取り出してみると、発泡酒は冷たいままだったのを確認しホッと胸を撫で下ろす。
「これで飢えはないか。じゃあ、先ずは……」
俺はコンビニ袋を再び収納すると複製を繰り返す。コンビニ袋が二袋から四袋になり、更に倍増で八袋になり、更に倍々で増やし百二十八袋になったところで「今日はこの辺にしとくか」と取り出したコンビニ袋をテーブルの上に置くと発泡酒を手に取りプルタブを開け『プシュッ』と音が鳴ると同時に口元に引き寄せ、ゴクゴクと喉に流し込む。
「プハァ~美味い! じゃ、ねえよ! どうすんだよ、これからよ……」
発泡酒を飲み、瞬間現実逃避してみるが、直ぐにこれからのことを思い直し不安が頭を過る。
「大体、客ってなんだよ! 折角の異世界を楽しもうと思っていたのに、何故か確保されるっていうか、軟禁される感じになってるし……いっそ、逃げる?」
客を逃がした場合には村単位で処罰されると言っていたけど、そもそも見も知らぬ人達で縁もゆかりも無いのだから、俺が気に病む必要もないしなぁ……でもなぁ……と考えてみても堂々巡りでイイ答えが浮かばない。
「シッコしたい……」
考えは纏まらないが、酒を飲めば堪ったモノもを出したくなるのもしょうがないと、ポットン便所に向かい、「大丈夫だよな?」と光が届かず暗くて何も見えない底を確認してみるが、どう頑張っても見えない。ならばと灯りを使えば見えるかなと思い浮かぶが、底にあるのは所謂排泄物だろうと、見る気も失せたのでズボンのファスナーを下げて取り出し、縁を汚さないようにちゃんと持って狙いを定めて放出する。
「ふぅ~……ん? んんん?」
『……』
俺が気持ちよく放尿していると、トイレの底の方から何かが聞こえてきた気がしたが「まさかな……」と全てを出し切ってから、右手とモノに『クリーン』を実行しテーブルの方へ戻る。
「さてと酔っ払っちまう前に寝床だけでもちゃんとしとくか」と独り言ちながら、ベッドらしき物の側に立ち「ん、汚いね」と見ただけで不潔さが分かったので、クリーンを五回ほど掛けてみるが「まだ、不安だな」とベッドの表面を確認する。
「こういうのって、ダニやシラミがいるよね。さて、どうするべきか……あ! 収納!」
ベッド全体にクリーンを掛け、見た目は綺麗に見えるが、肉眼では確認しづらいノミ、ダニ、シラミなんかの害虫が潜んでいるハズだからと決めつけ、ベッドに寝転ぶことを躊躇っていた時にふと思い付く。
確か……インベントリには生き物は収納出来ないお約束があったハズだ。ならばと試しにベッドを収納してみれば、『ポン!』とベッドが消えた後に『ドサッ』と音がしたと思ったら、そこには確かめたくない小さく蠢いている何かがいたので、ソレが逃げ出さない内に障壁を使って、それらを閉じ込めると「消滅!」と無かったことにする。
俺はベッドを元の位置に戻すと、今日はこのくらいでいいかとテーブルに戻り、コンビニおにぎりの梅干しを袋から取り出し、丁寧にビニールを取り外すとパクッと一口だけ囓る。
「ん~やっぱり、お米だよね。ってか、なんでからあげクン買わなかったんだ俺ぇ!」
ま、過ぎたことはしょうがないとポテサラを取り出し、食べようとしたところでスプーンもフォークも割り箸も入ってないことに気付く。
「あの、店員……いっつもいつも俺がお願いするまで入れやしない!」と今はどうしようも出来ない無愛想なバイト女性に悪態を付いてみる。そして「どうか、タンスの角に足の小指をぶつけますように」と軽く呪っておく。
ポテサラを食べるのに少し苦労したが、誰も見てないし、文句言う奴もいないので、適当に食事を済ませ、二本目の発泡酒に手を掛けたところで「おっと、忘れちゃいけない」と小屋の戸締まりを確認するが、その玄関には閂すらなく誰でも入ろうと思えば、入ってこられる状態だったので俺は少し不安になり障壁を小屋の中一杯に展開させる。
「よし、これなら虫も動物も入ってこられないはず。後は……呑むしかないよな……じゃあ、これからの俺の前途を祝って……って、祝えねぇ……マジ、どうすんだ?」
『ズル……ズル……』
「ん?」
『ズル……ズル……』
「もう、酔ったのか? いや、まだそんな感じはないけど……」
『ズル……ズル……』
「やっぱり、聞こえる……障壁は張ったばかりだぞ」
『ズル……ズル……』
「え、何? 怖いんだけど……」
『ズル……ズル……』
俺は下の方から聞こえてくる不快な音を確認したいと思うが、見た瞬間にどうにかなりそうな気がしてなかなか確認することが出来ずにいた。
「まだ、聞こえてくる……どうすんだよ、コレ……」
『ズル……ズル……』
「ガンバレ、俺! よし、見るぞ! 見るんだ、俺!」
『ゴソ……グシュ……ガサ……パキ……』
「あれ? 音が変わった……」
何かが這いずるような音がしていたのが、今度は物を探しているような音に変わる。
「そういや、空き缶とかビニールをそのまま、床に放っていたな」と思い出すと同時に「なら、もう足下に来ているってことじゃん!」と慌てて椅子の上で体育座りになるとガクガク震え出す。
「助けてぇ~!!!」と叫ぶが、自ら張った障壁に遮られ家の外にまで聞こえることはなかった。
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