第15話 楽しいお出掛けのハズが……
お礼の品を受け取ってくれたオジーから感謝の言葉と共に気になる一言『猫獣人の娘が王都の屋敷を監視しています』と書かれていたのを見て、ふぅ~と嘆息する。
まさかねと思うが有り得るかと頭を振って記憶から振り払う。
「さてと……セツ、お出掛けしよっか」
『ピィ!』
このまま御屋敷にいても特にすることもないし、下手に関わると碌でもないことをやらされそうな気がしてならないので、暫くぶりに冒険者ギルドに顔を出すことにした。
「こんにちは~」
「あ、ヒロ様! よかった、オジー様も見られないしどうしたものかと思ってました! 来て頂きありがとうございます。早速ですが、こち「ちょっと待とうか」ら……え?」
「いや、え? じゃなくてその束は何?」
「何って分からないですか? 溜まっている依頼書ですよ。所謂塩漬け依頼ってヤツですね。さ、どうぞ」
「いや、だからさ。どうぞじゃなくて……そもそもそんなにたくさんは受けられないよ」
「では、私の方で「だから、ちょっと待って!」……もう、さっきからなんですか! 選り好みばかりじゃランクを上げることは出来ませんよ!」
「別にいいよ」
「へ?」
「え?」
「おいおい、聞いたか?」
「ああ、聞いた」
「アイツ、本気か?」
冒険者ギルドに顔を出すと受付カウンターに座っていたケリーさんが俺に気付くと同時にカウンターの上に依頼書の束をドンと載せ、俺にどうぞと渡そうとしてくるのをやんわりと止めれば不思議そうな顔をする。
ケリーさんは、冒険者ランクを上げるなら、依頼を選り好みしている場合じゃないですよと言うが、特にランクを上げようとは思っていないことを告げれば、俺とケリーさんのやり取りを見ていた野次馬が騒ぎ出す。
「ふふふ、ほらほら、他の皆さんはそう思ってないようですよ。どうしますか?」
「なら、その人達に割り振ってあげればいいんじゃないですか」
「そうしたいのは山々なんですが……」
「ですが?」
「少しばかり難しい案件が多いので……」
ケリーさんが俯いた後に上目遣いでこれでもかとばかりに目を潤ませながら「どうか、お願いします」と言って来たので「だそうですよ」と興味深げにこちらを伺っていた野次馬連中に水を向ければサッと皆が目を逸らす。
「おいおい」と思いつつ、誰もが敬遠する依頼ってどんなものなのかと好奇心を擽られてそっと一枚目に目を向ければ『ゴブリンの巣討伐』とあり、なんでこんなのがと不思議に思っていると二枚目、三枚目も同じ内容だったのでケリーさんに依頼が被ってますよと言えば、それぞれ別物だと返された。
それでも、ここにいる冒険者ならそれほど苦労するかなと思いつつ不思議に思っているとケリーさんが「場所が近すぎるんです」と言う。
「へ? でも、個々に対応すればそれほど難しいとは……」
「難しいんです! ふぅふぅ……」
「あ、はい……」
ボソッと口に出てしまった俺の言葉にケリーさんが噛みつくように返し、少しだけ息が荒くなる。
「取り乱しましてすみません。ですが、それほど単純な話ではないんです!」
「え~と、それでも俺は単体ですけど?」
「分かってます」
「いやいやいや、分かってて俺に依頼するんですか?」
「そうです。何か問題でも?」
「いやいやいや、だから大ありでしょ。個別対応がムリな案件だといいながら単体の俺に依頼を受けさせようとするのはおかしいでしょ」
「そうですか?」
「そうですよ。まったく」
「でも、ムリな案件じゃないですよね?」
「そりゃ「はい、聞きました。では、よろしくお願いします」……って、何も言ってないんですけど」
ケリーさんにムリじゃないんでしょと問われ、確かにムリそうな案件じゃないよなと肯定しようとしたところで、ケリーさんからの追撃が入り受けるとは言ってないと反論すれば「でも、出来ない案件ではないんですよね?」と顎に人差し指を置き、上目遣いであざとくコチラを見上げてくる。
「まあ、それなりには……ハッ! だからって受けるとは言ってませんよ!」
「……分かりました。じゃあ、こうしましょう」
「どうするんですか?」
「ホントに特別ですよ」
「だから、なんですか!」
「依頼料を三割増し、そして天引きされる税金もギルドで負担しましょう」
「ふぅ~ん、他には?」
「くっ……しょうがありません。この手は使いたくありませんでしたが、私「あ、それはいりません」を……って、えぇ! どうしてですか? 自分で言うのもなんですが、こう見えてもお誘いは結構あるんですよ」
「間に合ってますので……」
「……やっぱり、ミーさんですか」
「え?」
ケリーさんは依頼料の割増しと天引きされる税金をギルド負担でどうかと提案して来たので、他にもあるのかと煽ってみればケリーさんが恥ずかしそうにしながらもどこか堂々とした態度で胸を寄せ上げながら上目遣いで「私」と言ってきた瞬間に拒否すれば、あまり聞きたくない名前を聞かされ戸惑ってしまう。
「隠さなくてもいいですよ。ミーさんから全てを聞いています。『絶対に手を出さないように』と言われていましたが、ヒロ様は意外な優良物件なのでなんとか既成事実を作ってしまえばなんとかなるだろうと安易に考えていましたが……そうですか。それほどミーさんのことを……」
「いやいやいや、ちょっと待って。なんでそこにミーさんの名前が出るの?」
「何故って……そういうご関係だとお聞きしていますが?」
「ないから! まったくそういうご関係じゃないから!」
「じゃぁ「って言ってもケリーさんもお断りです」……では、やっぱりオジー様と」
「それも大きな誤解だから! とにかく三割増しの天引きなしなら受けますから」
「分かりました。ホントに私はいらないんですか?」
「いりません! そんな……」
「そんな?」
ケリーさんにミーさんとの仲を疑われ否定すれば自分をと売り込んでくるが、それすら否定すればオジーとの仲を疑ってくるので、それも思いっ切り否定したところでホントに私はいらないのかとアピールしてくるので思わず「そんな厄介ごとはゴメンです」と言いそうになったところで寸前で止めることが出来た。
「とにかく、一筆お願いします」
「はい、どうぞ」
「ありがとう……って、これ婚姻届じゃないですか!」
「チッ……ダメでしたか」
「ダメでしょ。とにかくさっき言ったことを書面にして署名捺印をお願いしますよ」
「だから……はい!」
「いやいやいや、だから婚姻届の備考欄に書いてもダメですから! しかもご丁寧に既に保証人の欄まで埋めてるし……」
「もう、ワガママなんですね」
「いいですから、早くして下さい」
「もう、分かりましたよ。はい、これでいいですか」
「最初っから、素直にそうして下さいよ」
ケリーさんから紙を受け取り、内容に過不足がないかをチェックする。特に自分が不利になるようなことが書かれていないかを重点的に調査する。
「はい、確認出来ました。では、ギルマスの署名捺印もお願いします」
「え?」
「いやいやいや、え? じゃないですよ。ケリーさん一人の裁量じゃムリでしょ。だから、早くお願いします」
「……」
「ケリーさん?」
「……ナシじゃダメですか?」
「えっと、どういうことですか?」
「ですから、ギルマスから許可が下りない場合は私を「いりません!」……そんな、ヒドい!」
「とにかく、早くして下さい」
「分かりました! 少々お待ち下さい!」
さっきのケリーさんの様子からケリーさんの独断専行だったんだろうなと安易に予測出来るが、ギルマスの許可が下りなかったら、強引に自分を差し出したんだろうなと考えるとブルッと身震いする。
それにしても遅いなぁ~
最後まで読んで下さりありがとうございます。
おもしろい!
続きはどうなの!
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と、思ってくれた方。
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